魔王と勇者
もし、魔王が善良だったらという前提でかいてみたネタ小説です。
15802年某日、第八代勇者として神殿から派遣された当代の勇者とその仲間達は困惑していた。
「やーメンゴメンゴ。今、紅茶きらしてて…麦茶でいい?てか いいよね!夏だし。やっぱり夏は冷えた麦茶に限るよね!」
「魔王様、勇者とお仲間の方々の分のグラス用意いたしました。」
「ありがとパーカス!!そこ置いといて。あ、昨日のおやつの林檎タルト残ってる?」
「はい、そうおっしゃると思ってご用意いたしました。」
「マジで!!流石だぜパーカス!!お前みたいな完璧な悪魔で執事はいないぜ!!」
「このパーカス、歓喜の極みにございます。」
「あのー…悪いんだけどさ、麦茶に林檎タルトはなくない?」
「聞くとこ違う!!そういう問題じゃないだろ!!」
盗賊の少女のボケに盛大にツッコミをいれる戦士の青年。
もはやカオスと化した状況に勇者の少女は盛大に眉間の皺をよせ、老神官の爺さんは困ったように眉毛を八の字にしていた。
遡るほど一年半前、人間界にある魔王領に隣接した王国、アトラディアでは八代目の勇者が任命された。
勇者の名前はユフィア・グランリー
天使のような清らかな外見とは裏腹に、彼女は仕官学校を首席で卒業し、全国武術大会において三連覇した聖騎士で、神殿の切札とも言われた女傑であった。
彼女に与えられた使命は魔王討伐という過酷なものだった。
旅の途中、六人の仲間を集め、魔王領域に住まう魔物達を倒し魔王がいるという魔界の入口に突入したら、何故か畑のど真ん中にいた。
「あれ、まあ。人間さんが来たよ」
「もう、そんな時期かぁ、んじゃ歓迎するべ」
と、魔族の農夫達(?)に友好的に歓迎され、村でパーティーまでひらかれた。
困惑していると、村に魔王城からの迎えの馬車がきた。
これはチャンスだと言うことになり、勇者一行は馬車に乗り込み魔王城に来たのだが、出迎えたのは軟弱そうな青年だった。
黒髪黒目の長身の美形だが、どこかナヨナヨした草食系で、顔も至ってニコニコしている。凶悪な角が頭から生えてなければ善良な好青年にしか見えない。
定番の黒い衣装ではなく何故か麦わら帽子に農作業ようの服を着ている魔王に、ユフィア達は毒気を抜かれてしまった。
「とりあえず、立ち話も難だし、かけてよ。」
そう言われて渋々勇者達は豪奢なソファに腰をおろした。
「えーと、今、三百年分の借地料用意してるから待ってね。」
「しゃ、借地料?」
「あれれ?国王に聞いてないの?うち、お宅の国の王に土地を借りてるんだよね。君たちも此処に来るときにきた魔王領、あれがうちで借りてる土地ね。」
「…少し宜しいだろうか…魔王殿」
老神官に魔王はキョトンとした表情でなに?と首を傾げる。
「我々は魔王討伐に派遣された者です。貴方ならその意味がわかると思いますが」
「討伐?取り立てじゃなくて?」
「どうやら、またこの三百年でややこしい曲解をされたみたいですね。陛下。」
「…マジでか。何でいつもこう物騒なほうに曲解しちゃうんだろ。あー人間ってよくわからないな。」
「良く解らないのは私たちだ!説明しろ! 」
ダン!とテーブルを叩くユフィアに、魔王はビクリと肩を震わせた。
「今回はおっかない子が来たなぁ。まあ、いいや。説明するとね、長くなるんだけど、昔、俺の親父の代で魔界は食料危機に陥ったんだ。」
「食料危機…ですか?」
「魔族って皆長寿だし繁殖力が高いからさぁ、人口が凄いことになるわけさ。当然、食料が足りなくなってくる。
そこで親父は人間界の穀物に目をつけた。
麦や米、野菜を育てれば莫大な食料を確保できるし、味もそんなに悪くない。
人間界と交易をもてば他の食料も入ってくると考えたんだろう。しかし、ある問題点があった。」
「問題?」
「太陽だ。」
「人間界の穀物は太陽の光を浴びて成長します。しかし我が魔界では太陽光はないので作物を作るのは無理難題でした。」
「親父殿は考えたすえに、人間界と魔界を通じる穴をあけた。それが魔王領だ。
魔王領から集められた光は専用の魔道具で使い各地の畑へと光を届けられる仕組みになっている。
親父殿は陽当たりのよさそうな国を探し、お宅の国の王に穴をあけるための土地が欲しいと頼んだそうだよ。それで当時の国王と借地契約を結んだ。」
「し、侵略ではなく合意のもとで土地を借りたのですか?」
「だって、神様から人間界攻めちゃだめよってわざわざ境界線引かれてるから、侵略は出来ないんだよねぇ。土地を借りるのもギリギリだったし…そんな労力があるなら農作業したほうが有意義じゃん?」
その言葉に勇者達は沈黙した。まさか、いやそんなと頭をフル稼働しているが、魔王の言葉に嘘がないのは此処にくる道中で見ていた豊かな田園風景をみていたのでわかる。
では勇者とはなにかと言う問題になり、ユフィアは頭を抱えたくなった。
「じゃあ、ここまでに戦ってきた魔物はなんなのさ!ここに来るまでに三人の仲間を犠牲(怪我でリタイアしただけ)にしたのよ!」
悔しげに吐き捨てる盗賊の少女に、魔王は「あぁー、そりゃあお気の毒に。」と申し訳なさそうに黙祷をしている。隣の執事も残念そうな表情だ。
本気でやってるので殴るに殴れない。
「魔界の野生生物だよ~、穴を通ってそちらに行っちゃったみたいだね。一応、魔王領域に結界から出ないようにしてるんだけどゴメンネ!」
「…何のために…我々は」
「そう御嘆きになさらないでくださいまし。勇者様の仕事は既に達成されていますよ」
『は?』
執事のパーカスの言葉に勇者達は目が点になった。
「勇者ってのは借地料金を取りにくる使者のことなんだ。
俺ら魔族はさっき言ったように境界線の関係で人間界にはいけないの。
だから人間さんから借地料金を取りに来てもらうように天界に話をつけたのさ。」
「…つまり勇者とは《魔王領域の魔界生物達と戦って魔界に来れるほどの勇気ある使者》の略称でございますね。あ、そうそう、神殿から何か渡されませんでした?」
「あ、…ハミテルという蔓葡萄の種を」
「聞いたかパーカス!!蔓葡萄だ!来年はワインが作れるぞ!!」
「ようございましたね陛下。」
ウキウキとする魔王と執事に疲れた勇者達は、深いため息をこぼしその中の一人がポツリと溢した。
「結局魔王っていったいなんなの?」
「さぁ?」
300年分の借地料金をもって凱旋した勇者達は、微妙にやさぐれていたそうな。
短くてすいません