そうだ、呪殺しよう。搾取されていたので報復することにした
そっちがそのつもりなら、潰させてもらいますわ。
ヤチヨは今まで姉に搾取されてきた。意味がわからないので暫く搾取されてあげたものの、やはり搾取され続ける理由がイマイチわからないから首を傾げるしかない。
姉はどうやら今代の当主候補らしいが、能力はあるが見た感じ異能の威力は明らかにヤチヨの方が強い。つまり、自分より強い妹が産まれたので周りにヤチヨが弱いと思わせて当主を取られたくないから、それだけの理由で今まで洗脳じみたことをしていたみたい。
「後から生まれたくせに私より前に出ようとするなんて、おかしいことなのよ」
それだけでは飽き足らず下女みたいにこき使う真似もして、ヘトヘトにさせ。仕事をあまりできない妹として、活躍させない方法まで取っている。
朝から晩まで下女扱いしたら、残りの体力も睡眠も取れるわけがない。そんなフラフラ状態で、まともに能力が発揮できるわけがないのだ。
両親は朝から晩まで働く妹を見ているくせに、姉よりも出来損ないだと信じている。そんなアホなと思うのかもしれないが、姉の口癖で妹がよく両親の悪口を言うのだと説明していることから、憎悪を抱かれてしまっているらしい。
信頼値ゼロの状態で不平等なんて、声高に言ったところで可哀想になんて同情されるわけがない。人間味溢れる人たちならばとっくに労働から外されているはず。
それに、今さら家が娘よなんて抱きしめられたところで、熱い手のひら返しである。人でなしに愛されても、利用価値のある人間扱いで今の状態からそこまで変わらないだろう。
「あっ、呪札作ろうっと」
語尾にハート型を付けて、転生したことを知ったヤチヨが最初にやったのは。おまじないの書物で得た、膨大な知識ゆえの呪いの札や呪いの方法の実践だった。もうこの世なんてなくなっちゃえばいいのだ。この世界、普通に滅べ。
現代っ子がブチギレたらこうなる。
あちこちお札を貼っては、制作をし続けた。えんやこらえんやこら。呪札がいい感じにジワジワ効果を発揮して、身内や一族たちが原因不明の呪いにかかる。しかし、姉の力は妹の自分より弱いので解決できない。
「ぐ……あ」
唯一ピンピンしているヤチヨが寝込む物たちを介抱する。文句を言った人たちはぶっ叩くうちに、誰も彼もが口を閉じた。冷たい水を、タオル越しに浸したものを当てたらさらに黙った。
そもそも、面倒を見てもらっている分際で生意気すぎる。トイレにも行けないくせに、なぜ偉そうにできるのか不思議だ。
そのうち、原因を探るために他の派閥の人間が送られてきたがすでに札は消えており、原因解明できずに手こずっている。飲ませている水も呪いが込められており、たっぷり飲ませたからもういいか。
それに、呪いが染み込むように耐性を下げるためのお清めも済ませている。お清め、つまりは必要な呪いの耐性を無くすことができるのだ。薄い呪いをウイルスのワクチン扱いしていたみたいだが、それを綺麗さっぱり消したら進行してもう普通に暮らせなくなったみたい。
呪ったのではない。清めたのだ。これで上書きされ呪いの痕跡が体からも消えた。そんな後に調査したところで、わかりっこない。見た目は働きながら、大変そうだなという顔をしていたが内心は早く一族も人類も滅べと、念押ししていた。
彼らはもう子孫を残せないので成就している。世の中では末代まで呪う、なんて気が長い人間がいるがまどろっこしい上に後々、解かれでもしたら失敗するではないか。
しかも、あとからの時代の場合、対処法も次々確立するかもしれないし。現代に近くなると呪いも科学でどうにでもなる、なんてことになりかねないのに。そんなのは許せない、させない。
今ここで子孫を潰してしまえば憂いもなく、ニコニコと未来を生きられる。一緒に死ぬのもごめんなので、こちらは百歳まで生きるつもりだ。
「ちょっといいか?」
「はい」
後ろを向くと派遣されてきた当主の男がこちらを見ている。この男は一族の代表で、当主候補として目をかけられていた時から一族間の付き合いもあり、ある意味幼馴染という枠に近いかもしれない。
話したことなどないが。姉は当主候補だったので、何度も話したのを見たことはある。そんな男が何用だろうか。
「お前がやったのではないのか」
「はい?」
「お前だけが無事なのはおかしいではないか」
「え、はぁ。そうなんですね」
「おい、聞け」
推理にもならない消去法で物を言ってそうだ。原因がわからないからと近場で済まそうとするなんて、いかにも職務怠慢。というか、ヤチヨを犯人にすればこの件は終わり。確かに一番楽で一番、早く終わるだろう。
「単に耐性があっただけなのでは?」
適当に言っておいた。生き残っているからイコール犯人なんて、よくもまあ探偵ごっこすらできないお粗末な結末を選んだものだ。
「お前は姉妹も両親も一族も恨んでいただろう」
「そんなことはないですけど」
「そんなわけはない。ずっと冷遇されていたではないか」
「はぁ。冷遇なんてされていませんよ」
この男、ヤチヨが長年冷遇されていたのに、見て見ぬふりをしていた告白をしてきた。恥ずかしくないのだろうか。
「私にはこの世に生きる人々を守る義務があるのだ」
「へえ。そうなのですね」
なんだか当主らしいことを言う。
「恨むのはよせ」
周りから大切にされてきた側の意見が、耳に流れては内心鼻で笑う。
「恨んでおりません」
「恨んでいるのだろう。普通は恨む」
「恨んでいないので、異常なのですか?普通とはあなたの普通のことですよね。私はずっとこの生活をしているので、あなたの言う異常が普通だっただけです」
「認めろ」
「ですから。人違いです」
「貴様を当主として幽閉することもできるのだぞ」
「犯人と認める以外の言葉を言っただけで、幽閉されるのですね」
ただ、適当に犯人にしたいだけだとわかっている。誰が犯人なんてどうでもいいのだ。事件自体が収まって、ちょうどいい感じに犯人が捕まれば世間は勝手に、終わったことにする。
「私を捕まえても犯人じゃないのでどうにもなりませんよ」
「お前が犯人だ」
「姉よりも能力が使えないのに?」
男の尋問はそこで詰まる。そうなのだ。自分は昔から弱い弱いと言われて、周りから虐げられてきたのだ。
「それは」
「それは?」
「強力な呪物などを手に入れて」
「それはなんの代物なんですか?」
「これから、調査すれば」
「その代物は見つからなかったのですよね?ただの憶測では」
「お前の部屋を改める」
「ええ。まあ、どうぞ。お好きに。なかった場合、私が犯人でないと認めるのならば」
「いや、お前が犯人だ。そうでなければ」
「別に私はあなたにとって、守るべき人々の中に入ってないみたいなのでお好きに、推察でもなんでもどうぞ」
「そんなことは、言ってない」
図星を刺されたからか、言葉が重くなったように鋭さが消えた。人々を守るお役目を持つ人間。一人の女もまともに救えないのだから笑える。
「あなたの妄想の中の私は冷遇されているのですよね?なら、なんで冷遇されていることを知った時に私を助けてくださらなかったのですか?」
「……な、に?」
思わぬ話に相手の思考も停止してしまったのか、眉間の皺が深まる。
「あなたの中で冷遇されていたというのなら、守る中に冷遇された別の一族の未成年の女は入ってないのですか?それはなぜですか?冷遇されてるなぁと思った時に保護でも、引き離すでもすればよかったのでは?なぜ、思うだけで行動してないのですか?」
「あの時は、力がなかった」
「当主になったあとも、うちの一族と話し合いの席はありましたよね?私、配膳していたのであなたのこと覚えてますよ。姉と楽しそうに笑ってましたね。片方は座って食べているのに、もう片方が休むことなく、走り回っていたのを目の前で見逃していたなんてことありませんよね?」
一族の髪色は目立つし、一目で姉の妹とわかるくらいには姉妹は似ている。あれは他人なのだ、なんてことは思わない。それに冷遇されていると思うほど観察していたのならば、次見た時に顔をしっかり覚えていただろう。
なんだかこの人、言っていることや理想を語る割に実際やることの乖離が見て取れる。
言葉ではやるやると詐欺みたいに連呼。実際見てみよう。ヤチヨは彼が冷遇に気付いた時期から一ミリも状況は改善されてない。言葉を交わしたこともない。
それって、事実確認もしてないのではないか。しかも、聞いてきると人を入れて調査している様子もない。ただ、冷遇されていたとばかり。
具体的な内容が出てこない辺り、この人はなんのアクションもしていない。普通に眺めていただけの傍観者だ。助けたいだの、見ていたと言うばかり。
本当に見てただけだ。それなのに、呪うのをやめろとかよく言えたな、コイツ。どう見ても、うちの一族はヤチヨに将来的に滅ぼされるフラグがめちゃくちゃ立っていた。
滅亡コース一直線だろう。気配や予感を無視しておいて、世の中の人間を守るなんて目の前で言えたなぁとバカを見る目にならざるを得ない。
「助けを求めてくれれば助けた」
「え?まさかの私のせいですか?」
「せいにしていない」
今度はこちらのせいにしてきた。逆にすごい。この人は人に言い返せなくなると自分のせいにしたくなくて、他責気質になるのか。それならば、易々と目の前の惨劇フラグを無視したのも納得。
「んー。仮に私が犯人として、仮に冷遇されていたとして。どんな時に言えばよかったですか?どう言えば助けてもらえました?分かりやすく虐げられていたことを周りも把握していたのに、私へ一切大人は何もしてくれなかったということになりますが……当主でもないあなたにも無理で、他の一族に助けを求めて助かる確率ってどれほどなのですか?」
一族以外にも集まる宴会でこれみよがしに姉から「使えない妹で」とこき下ろされていた。それを見た大人たちは触らぬ神に祟りなしとばかりに、聞こえないふりをしていたのだが。一体ヤチヨはどのタイミングなら助けてもらえたのか。
はて???
子供の幼い時から似た生活をしていた。勿論、周りにはたくさん目があるから虐げられていることは皆把握していたはず。子供の時に可哀想と思われもしないのに、大人になってから思われるわけがない。
本気でいつ助けてもらえるのか。三十年後?五十年後?まさか死ぬ寸前?
「私はいつ、誰に助けを求めたら助けてもらえるのでしょうか?」
「……よ、用があることを思い出した」
「ん?」
「失礼する」
スタスタ向こうは歩いて行く。敗北エンドである。後ろ姿は逃げるよう。
「答えられてない。世界を守る当主、ダサいな〜」
あんなのが守っても滅亡は止められないだろう。
「そもそもの話、この国で人類守ったところで行き着く先は少子高齢化なんだけどね。敵は私じゃないんだけど、あの人最後まで見て見ぬふりするんだろうなぁ」
元々理想だけは高くて、結局なにもしない人なのだ。パッと見はカリスマ性もあって支援者とかファンは多いけど、自尊心を満たすことが目標になっているので全然動かないのだ。
「一族のバックアップもあるからある程度失敗しない依頼とか、あらかじめ選別されてそ〜」
生まれた時から約束された立場ならば、姉のように本当は妹が凄いのに周りからは崇められることが、まかり通る。
「あの男に優秀な弟とか妹が生まれたら、どうなるのか楽しみ」
意外とキレて、世の中の浄化を理由に実力を出せないように激戦地とかに送ったりして、自分から離れさせようとするかもしれない。やりそう。
「さて、仕込みも済んだし」
誰も一族だけ子孫繁栄阻止の呪符を用意したとは、一言も言ってない。宴会や話し合いに駆り出されること何十回。そこにいるのは当主や側近、派閥の人間。皆、ヤチヨが虐げられているのを間近で見ていたのに声もかけなかった、卑怯者たちだ。
酒も料理も堪能して、余興で姉妹の醜い喜劇をニヤニヤして見ていた。人の不幸は蜜の味。
「可哀想な人が好きなだけでしょ」
男の分析を雑に終わらせると、ヤチヨは札を使って使い魔を呼び出した。羽ありなので、背中に乗って飛び去ると国を後にする。異国の地で魔王と名乗る己の立場の洋風バージョンの男と気が合い、共に暮らした。
おかげで、可愛い子供が産まれて幸せである。これもそれも、ヤチヨを見て見ぬふりをしてくれた祖国の人間たちが愛国心の芽を摘んでくれたおかげ。
「知っているか」
話しかけられて、横を向くと愛しの夫が新聞を見せてくる。そこに書いてあったのは、和国全ての人間が突然妊娠しなくなったという、存亡を色濃く感じさせる滅びの記事。
「知ってる」
「そうか」
彼はヤチヨの祖国がどこか知っているから、それで以上何も言わなかった。こちらの望みは人類滅亡である。ただし、己の子は例外だ。
記事には他にも例の若き当主が救うとほざいていたはずの、民という名の周りからもの凄く責任問題を追及されている写真。顔がげっそりしている。さすがに、ヒーロー願望は持っていないだろう。
民草からもここまで精神的に、暴力を受けているのだから。願いを叶えるつもりはとうに失っている目をしていた。奇しくもヤチヨの思考に近付いてきている。
「この人は虐げられ続けた末に、呪わずにいられるのかな」
当主になるほど優秀なら、ヤチヨよりも教育をたんまり受けてきた知識量は計り知れない。禁忌すらも頭にあるはずだ。なんせ、当主なのだから、禁忌を知らないことを許される立場ではない。確実に言い伝えられていたりもするだろう。
ヤチヨという毒は当主ぶった男にも、言葉として長く残り。寝る時、辛い時にふと浮かび声が囁くだろう。人は楽な方に流れるのが得意だから。他責思考気質の男には、さぞこちらの言葉は耳障りもよかったはずだし。
彼の記事に子供がいるとの情報もあり、優秀なのだとか。親には期待しないが息子は期待できるとの皮肉も、揶揄されている。さすが、世の中は残酷だ。彼が守りたい、とほざいていた人間たちは本当にお優しいことで。
数年後、当主だった男が息子を襲う事件があったと、新聞で見つけたときはこうなったかと感想を抱いた。最後に会って会話した時に、いつ助けてもらえたのかという質問に答えなかった彼。
彼は今、例えば同じことを聞いて見た場合、なんと答えるだろうか。また聞こえなかったフリをするのか。もしかしたら時間を経て、答えを出せたかも知らない。
ヒーロー願望を持つ男を助ける人は、ついぞ現れなかったことだけはわかった。もしかしたら、息子が父親を助けたい気持ちで才能が開花してうっかり父を超えてしまった……としたら。
「褒めてあげればよかったのに」
息子がすぐそばで自分を超える様を見せつけられたら、気が狂っても変ではない。特に自尊心と承認欲求が高い人間ならば。
ヤチヨの姉は遠ざけて開花を阻止していたが、あの男は息子を目の前から消そうとした。どちらが酷いか。あの日の答えは彼の中ですでに出ていたのかな。
ヤチヨのときは当主じゃないから助けられなかっただけなんて言った男は、当主候補の子供が親を助けようとした気持ちもなにもかも、踏み躙って消して、葬り去りたかったみたいだ。過去の己とやったことは同じ。
さらに先の未来の新聞には供述内容が記載されていた。
『息子の分際で親を越えようとした』
我が子の手を握ると、握り返される力に笑みを浮かべた。
最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。現代人が感覚超他人に搾取され滅ぼせる方法があったらこうなると思ってます




