第5話 深まる疑問
僕はとも先輩に、遥希が犯人である可能性があることを告げた。
友達だから信じたい。信じている。
でも、それが疑わないという理由にはならない。
とも先輩は少し思案したような顔をしてから、口を開いた。
「仮に遥希が犯人だとして、美玖の話を聞いていたとしても、再現できないんじゃないか?遥希はバイオミミクリーの知識があるわけでもないし」
その通りだ。
僕ならともかく、遥希が消音帽子のような機構を再現できるとは到底思えない。
ただ、一つ気になることはある。
「僕は消音帽子を作る時に、できるだけフクロウの羽と似たような手触りになるように調整しました」
とも先輩が僕を見る。
「ただ、消音機構を作るだけなら、そのような必要性はないんです。だから、僕の消音帽子と、犯行に使われたと疑われる鈍器が似た手触りになるはずがないんですよ」
「……つまり?」
「つまり、犯人は僕の消音帽子を実際に見たか、触ったことがある人物じゃないかと」
とも先輩は腕を組んで考え込んだ。
「でも、それなら美玖も容疑者になるぞ」
「僕が犯人なら、わざわざ先生に消音帽子を見せるわけないですよ。そこは信頼してほしいです」
「それもそうだな」
とも先輩は一言だけ呟いて、また何かを考えているようだった。
部室に沈黙が降りる。
窓の外から聞こえていた運動部の掛け声も、いつの間にか遠くなっていた。
とも先輩が黙っている間、僕もこの事件の謎を考えていた。
傷を見たわけではないけど、鈍器で殴られたにしては傷が浅い気がすること。
実用性の伴わない凶器。
テストで赤点を取ると困ると言っていた、生物が苦手な遥希。
バラバラのピースが、頭の中で回っている。でも、まだ繋がらない。
僕は一つ気になったことがあり、意を決して口を開いた。
「そもそも、どれくらいの衝撃なら脳震盪を起こして倒れるんですか?」
とも先輩が、困ったような顔をした。
「不謹慎すぎないか?そもそも俺だって知らないよ。知ってたら犯人みたいだろ」
茶化すように言っている先輩も大概不謹慎である気がするが、グッと堪えた。
「なら、実験しません?」
「……は?」
とも先輩が素っ頓狂な声を上げた。
「幸い生物部は理科室の使用が自由なので、多分いけますよ。報告書は消音帽子の性能実験とかにしとけば通ると思いますし」
とも先輩は若干呆れたような顔をしている。
「あのな、探偵ってのは犯人から恨まれることもある仕事なんだぞ。素人が適当に首突っ込むべきじゃない」
「でも……」
「それに、もし本当に遥希が犯人だったらどうするんだ?友達を警察に突き出すのか?」
その言葉に、僕は言葉に詰まった。
考えていなかったわけじゃない。でも、目を背けていた部分があった。
「……それでも、このままにはできません」
「美玖……」
「仮に調査は警察とかプロの方に任せるとしても、消音帽子の製作者として放置することはできません」
自分の作ったものが、人を傷つけるために使われたかもしれない。
その可能性を、無視することはできない。
「僕には、責任があるんです」
とも先輩は深くため息をついた。
「はぁ……美玖って、変なところで頑固だよなぁ」
「頑固でもなきゃ、わざわざ作品を作ったりしないですよ」
僕はそう言い返した。
とも先輩は僕をじっと見つめて、それから立ち上がった。
「分かったよ。じゃあ、職員室に申請してくるわ。実験の準備だけしといて」
「え、本当に?」
「本当だよ。どうせ止めても聞かないんだろ?なら、一人でやらせるより俺も付き合った方がいい」
そう言うと、とも先輩は職員室に向かって駆けていった。
部室に一人残された僕は、棚から消音帽子を取り出した。
柔らかい、フクロウの羽のような質感。
これが、事件の鍵を握っている。




