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ループメイドの復讐 〜第13王子に王冠を捧ぐ〜  作者: 紬衣琉


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09

――それは、60回目の死を過ぎた頃だった。


リシェルは森の古びた祭壇に辿り着き、そこで初めて「精霊契約」というものを知った。





リシェルは繰り返す人生で初めて、王城を捨てる決断をした。


「……もう、ここでは何も変えられない」

涙も怒りも尽き果て、残ったのは幼いエルネストの手の温もりだけだった。


夜明け前、二人は城の片隅の家を後にした。

小さな荷物と、アメリア様の骨壺。

それだけを抱えて、国境へと続く街道を歩き始めた。


旅は過酷だった。

雨に打たれ、野犬に追われ、飢えに震えながらも、リシェルは決してエルネストの手を離さなかった。

「大丈夫です……必ず守ります」

その言葉を、何度も何度も繰り返した。


やがて二人は山を越え、荒れ果てた村に辿り着いた。

そこはリシェルの故郷だった――

だが今は瓦礫と灰だけが残り、神聖な祠も崩れ落ちていた。


それでも、風の中に微かな囁きがあった。

――ようやく戻ったか、我らの血を継ぐ子よ。


リシェルは膝をつき、胸を押さえた。

魂が震え、記憶の奥底に眠っていた光が呼び覚まされる。



敗戦国の捕虜として生きてきた自分の過去が、音を立てて崩れていく。


エルネストが不安そうに見上げる。

「リシェル……ここは?」


リシェルは彼の頭を撫で、涙をこらえながら微笑んだ。

「ここは……私の故郷のようです。昔から一部の部族の間で精霊と契約を結ぶ者たちの村と呼ばれていました。

私は……その血を継ぐ最後の一人だったのです」


老いた巫女が近づき、彼女を見つめる。

「その瞳……その魂の輝き……間違いない。あなたは、我らの姫の子」


リシェルの胸が強く締め付けられる。



巫女は精霊の光を指差した。

「精霊はあなたを守っていた。魂がすり減らぬよう、記憶を失わぬよう。

それは血筋の証。あなたは精霊に選ばれし者なのです」


リシェルは膝をつき、涙をこぼした。

「……だから私は、何度死んでも立ち上がれたのね……」


エルネストが小さな手でリシェルの袖を掴む。

「リシェル……」


その瞬間、リシェルの胸に刻まれた痛みが、静かに誇りへと変わった。




廃墟となった神殿のような瓦礫の中で、淡い光が揺らめいた。

それは失われた村の精霊の残滓。

リシェルは静かに手を伸ばし、誓った。


「必ず……この力を、エルネスト様の未来のために使います

どうか、私と契約をしてください。」


淡い光が強くなり、瓦礫の中に人影が浮かび上がった。

それは、かつてこの村を守っていた精霊の姿。


『姫の子よ。汝は幾度も死に、幾度も立ち上がった。

その魂は我らの加護により守られていた。

だが、契約を望むならば――代償を払わねばならぬ』


リシェルは震える声で答えた。

「代償なら……構いません。私は、エルネスト様を未来へ導くために生きています」


精霊は静かにエルネストへ視線を向けた。

幼い王子は怯えながらも、リシェルの手を強く握り返す。


『その子は優しき心を持つ。汝の誓いが真実ならば、我らは力を貸そう。

ただし――汝の魂は契約の炎に焼かれ、残された時は限られる』


リシェルは目を閉じ、涙を流しながら頷いた。

「それでも構いません。何度でも立ち上がり、必ず未来を掴みます」


光が彼女の胸に刻まれ、紋様が浮かび上がる。

それは精霊契約の証――スキルとは異なる、世界の理そのものから授かった力だった。


『汝の誓い、確かに受け入れた。』


リシェルは胸に手を当て、静かに誓った。

「必ず……エルネスト様を王にします」




――契約を終えた翌日。

リシェルはエルネストを連れて急ぎ王城へ戻った。

胸にはまだ熱い刻印が残り、精霊の力が確かに宿っていた。


だが、城門をくぐった瞬間。

背後から冷たい刃が突き立った。


「……っ!」

視界が赤に染まり、膝が崩れる。


「リシェル!」

エルネストの叫びが遠ざかる。


意識が闇に沈む直前、胸の奥で精霊の声が響いた。

――恐れるな。契約は生きている。汝の誓いは、次の時へと受け継がれる。


リシェルは微笑んだ。

「……これで……終わらない……待っていなさい」


そして世界は、再び“あの日”へと巻き戻った。


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