08
「では──最初の依頼をお願いします」
リシェルがそう切り出すと、ヴァルトは足を組み替え、興味深そうに顎を上げた。
「聞こうか」
「今回の調査対象は三つあります」
リシェルは指を折りながら、淡々と告げた。
「一つ目。
私をはめた貴族──“あの男”の現状。
以前の世界では、ラウル様が昇進するかもしれない時期に、
裏で根回しをしていたはずです。
その動きを、今の世界でも確認したい」
ヴァルトは軽く鼻を鳴らした。
「なるほど。権力争いの匂いがするな」
「二つ目。
ラウル様の妻──彼女はそろそろ“愛人”と出会う頃です。
その人物の素性、接触の経緯、目的を調べてください」
「愛人、ねぇ。
貴族の夫婦仲なんざ、だいたいろくでもないが……
まぁ、調べがいはある」
「三つ目。
ラウル様の昇進を決定する人物。
その人が誰に影響され、誰に弱みを握られているのか。
そこを知りたい」
ヴァルトは机を指先で軽く叩き、まとめるように言った。
「つまり──
お前をはめた貴族の動き、
ラウルの妻の愛人、
そして昇進を左右するキーマンの裏側。
この三つだな」
「はい。
どれも、アメリア様の濡れ衣を晴らすために必要です」
ヴァルトはしばらくリシェルを見つめ、
やがて口元をゆるめた。
「いいだろう。
どれも“人間の醜さ”がよく出る案件だ。
俺向きだな」
「報酬は……情報が集まってから決めてください」
リシェルが頭を下げると、
ヴァルトはくつ、と笑った。
「まけてやるよ、おもしろいからな」
「……からかわないでください」
「からかってねぇさ。
お前さんの“人生”は、俺にとって最高の娯楽だ」
ヴァルトは立ち上がり、黒いコートを翻した。
「三件とも、すぐに動く。
裏の連中にも声をかけておく。
数日もすれば、何かしらの情報がつかめる」
リシェルは深く頭を下げた。
「お願いします、ヴァルトさん」
「任せとけ。
お前の物語──しっかり覗かせてもらうぜ」




