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ループメイドの復讐 〜第13王子に王冠を捧ぐ〜  作者: 紬衣琉


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7/10

07

ヴァルトは、リシェルの名を前から知っていた。


王宮の厄介者──あの王妃と、その息子。

そして、彼らに仕える妙なメイド。

裏社会の情報屋として、名前だけなら耳にしていた。


だが、今回「リシェルがここに来る」と部下から報告を受けた瞬間、

ヴァルトは意識的に《人生読解》を発動させた。


視界に入らずとも、対象の“人生の流れ”を辿ることはできる。

固有スキルの中でも、彼のそれは特に異質だった。


流れ込んできたのは──奇妙な“重なり”だった。


同じ人生が、何度も、何度も、繰り返されている。

選択も、感情も、絶望も、決意も。

一本の道が、何本もの線となって重なり合い、

まるで“二重写し”のように揺れていた。


「……なんだ、これは」


ヴァルトは思わず息を呑んだ。


普通の人間の人生は一本の線だ。

だが、リシェルの人生は違う。

何度も折れ、戻り、また進み──

まるで“やり直している”かのように、同じ場面が繰り返されていた。


彼は眉間に指を当て、深く息を吐いた。


「……なんだこれは。こんな歪み、初めて見た」


リシェルという少女は、ただのメイドではない。

王妃の陰謀に巻き込まれた哀れな被害者でもない。


彼女の人生そのものが、世界の理から外れている。


だからこそ──

ヴァルトは彼女が扉を開ける前から、 初対面ではないと知っていたのだ。









「……ひとつ、お願いがあります」


リシェルが静かに口を開いた。


ヴァルトは椅子に深く腰を下ろしたまま、灰色の瞳だけを向ける。


「なんだい、リシェル嬢」


「私の……人生を読むのは、ほどほどにしていただけますか」


一瞬、空気が止まった。


次の瞬間、ヴァルトは喉の奥でくつ、と笑った。


「はは。悪い悪い。つい楽しくてな」


「……楽しくて、じゃありません」


「いやぁ、お前さんの人生は他と違って面白いんだよ。

一本の線じゃなくて、何本も重なってる。

読めば読むほど、謎が増える」


からかうような声音。

だが、その奥に確かな興味が滲んでいた。


リシェルは小さく息を吐き、話を続けた。


「契約についてですが……

私が死ぬまで、あなたに情報提供をお願いしたい。

ただし、情報の質や難易度によって、報酬はその都度相談させてください」


ヴァルトは片眉を上げた。


「死ぬまで、ね。ずいぶん長い契約だ」


「どうでしょう。案外短いかもしれません。」




ヴァルトはしばらくリシェルを見つめ、

やがて肩をすくめて笑った。


「いいだろう。

お前さんの人生は見てて飽きねぇしな」


そして、指先で机を軽く叩きながら言った。


「まけてやるよ。

お前の人生がおもしろいからな」


リシェルは目を伏せ、深く頭を下げた。


「……ありがとうございます」


ヴァルトは薄く笑い、椅子を揺らした。


「礼はいらん。

その代わり──これからも楽しませてくれよ、リシェル嬢」


その声音は軽い。

だが、契約の重さは、確かに部屋の空気を変えていた。




「今世こそ、生き抜きます」

小さくも決意を込めてつぶやく。


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