02
ここはヴァルター王国の王城。
その片隅にある、かつて使用人が暮らしていた小さな家。
今は、王宮から追いやられた第10妃アメリア・ヴァルターがひっそりと暮らしている場所。
そして――そのアメリア様は、今まさに息を引き取った。
「……アメリア様……」
八十一回目でも、慣れない。
慣れたくない。
薄い布団の上で、アメリア様の手はもう温かくなかった。
そのすぐ隣で、小さな寝息が聞こえる。
ベッドの端に寄せられた小さな身体。
金色の髪がふわりと揺れ、幼い頬が布団に沈んでいる。
エルネスト・ヴァルター。
ヴァルターン王家の第13王子。
まだ三歳の、あまりにも小さな子。
母の死を知らないまま、静かに眠っている。
(……また、この瞬間から)
涙は枯れたはずなのに、胸の奥が痛む。
けれど逃げられない。
ここがループの始まり。
アメリア様の死が、すべての起点となる。
アメリア・ヴァルターは、もとは小国の王女だった。
戦に敗れ、和平の証としてこの国へ嫁いだ。
美しく、心優しく、王の寵愛を受けていた。
――だからこそ、妬まれた。
他の妃たちは、アメリア様が王に愛されることを許さなかった。
そしてある日、彼女は“他の男と通じている”と濡れ衣を着せられた。
虚偽の証言をしたのは、宮廷書記官ラウル・ヘルマン。
アメリア様に想いを寄せ、拒絶されたことを逆恨みした男だ。
ラウルは買収した医師から“ほくろの位置”を聞き出し、それを王に告げた。
王はそれを密会の証拠と信じ、アメリア様を追放した。
その結果、アメリア様は城の片隅の古い家で病に伏し、
誰にも看取られずに死んだ。
リシェルが初めて経験した葬儀は、あまりにも簡素だった。
王家の墓所には入れないと言われ、故郷へ知らせることすら許されず、
近くの墓地に静かに埋められた。
まるで、最初から存在しなかったかのように。
(……まずは、あの男から)
アメリア様を貶め、追放し、死へ追いやった張本人。
宮廷書記官ラウル・ヘルマン。
リシェルの胸に、静かに、しかし確かな炎が灯った。
――復讐は、ここから始まる。




