01
――グサッ。
胸の奥で、刃が肉を割く鈍い音がした。
「あぁ……もう何度も経験したのに、涙は枯れないのね……」
視界が涙で揺れる。床に落ちる自分の血の色も、もう数え切れないほど見てきた。
八十一回目の死。八十一回目の絶望。
けれど、終わらない。
終わらせてくれない。
(……エルネスト様を、王にするまでは)
薄れゆく意識の中で、リシェルは静かに微笑んだ。
それは諦めではなく、執念の笑み。
そして世界は、また“あの日”へと音もなく巻き戻る。
血の温度も、痛みも、涙の跡も、すべてが霧のように消えていく。
代わりに、胸の奥にだけ重い痛みが残った。
(……また、ここから)
目を開けると、薄暗い寝室。
妃の部屋にしては質素で、人の気配もない。
薬草の匂いと、かすかな呼吸音だけが満ちていた。
ベッドの上には、衰弱しきったアメリア様が横たわっている。
「……アメリア様」
声が震える。
何度見ても慣れない。
八十一回目でも、胸が引き裂かれるようだ。
アメリア様はゆっくりと瞼を開き、優しく微笑んだ。
その光は、もうすぐ消えてしまう。
「……リシェル……来てくれたのね……」
その声を聞いた瞬間、喉が詰まった。
(どうして……どうして、あなたの死だけは変えられないの……)
アメリア様は弱々しく続ける。
「エルネストを……お願いね……あの子は……優しい子だから……」
八十一回目でも、初めて聞いた時と同じ痛みが胸を締めつける。
リシェルは涙をこらえ、そっとアメリア様の手を握った。
「必ず……守ります。何度でも……何十回でも」
アメリア様の指が、かすかに震えた。
「……ありがとう……リシェル……あなたに……託します……」
その瞬間、アメリア様の瞳から光が消えた。
世界が、また“始まった”。




