ミソカリ
今からみれば昔の話。
山で猟師をしているごんぞが仕掛けた猪用の落とし穴に、見たこともない珍しい生き物がかかった。真っ白な綿毛にくるまれた小さなまりのような身体に、くりくりとした大きな目が二つあるばかりで、耳も鼻も見あたらない。尻尾はなく、短い四つの足で穴から這い上がろうとするたびに、すべって転がり落ちるのだった。
「なんじゃー、こりゃー。」
ごんぞが恐る恐る手をのばして抱え上げてみると、その不思議な生き物はごんぞの指に噛み付く様子もなく、「ミソ。ミソ。」と小さな声で鳴くばかりであった。途方に暮れたごんぞは、山あいの村の村長の所へ不思議な生き物を連れて行くことにした。
「なんじゃー、こりゃー。こんな生き物はわしも見たことがないぞー。」
村長も村びとも誰一人この生き物を知る者はいなかったが、たまたま村長の家に逗留していた旅のお坊様に訊ねたところ、
「うむうむ、これはミソカリじゃ。人に幸福をもたらすという伝説の獣じゃな。味噌を喰わせれば恩に報いるという話しじゃから大切にされるがよろし。」と申された。それを聞いた欲深い村長はごんぞに、
「坊様に聞いたところ、長じて人に害を為す忌わしい獣じゃと申されたから、わしがひきとってくれよう。」と騙してミソカリを取り上げてしまった。
さて、恩返しを期待した村長がミソカリに味噌を喰わせたところ、なんとミソカリのひったクソの中に米が混ざっているではないか。村長は「なるほど、しめしめ。」とばかりに三月も味噌ばかりを与え続けたところ、ミソカリは犬ほどの大きさに育ち、一日一升の味噌で一俵の米の混じったクソをひるようになった。村長はその米グソを女房衆にせっせと洗わせては米蔵に積み上げて、「しめしめ、うっしっし。」とにんまりほくそ笑むのだった。
それからさらに三月がたち、ミソカリはさらに熊ほどの大きさに育ち、一日一俵の味噌を喰らい、十俵の米グソをひるようになった。村長の米蔵はミソカリのヒリ出した米ではちきれんばかりになったが、財産のほとんどがミソカリの喰らう味噌代に化けてしまい、今では村びと中から味噌を借り回る始末であった。
そんなある日、いつものように村長がやっとの思いで村びとから借りてきた味噌をミソカリに喰わせていると、突然ミソカリが苦しみもだえだし、「ミッ、ミソーッ!」と大声で一声吠えたかと思うと、ばったりと倒れ伏してしまった。慌てた村長はまたぞろ旅のお坊様を呼んで診てもらったところ、
「うむうむ、これは動脈瘤による脳卒中じゃな。味噌ばかり喰わせたんで塩分をとり過ぎたんじゃ。」と申されるではないか。さらに瀕死のミソカリが小さな声でうわ言の様に鳴いているのをお坊様が耳を近づけて聞いてみたところ「コメ・・、コメ・・、」と鳴いているのだった。
「うむうむ、獣は自分の身体の欲するものは自ら知るというからのぅ。さっそくに米を喰わせればよろし。」
それを聞いた欲深い村長は、
「じょっ、冗談ではない。喰らわせた味噌代の元手をとろうという大事な売米を、なんでまた喰らわせなきゃならんのじゃ。」と怒りだし、死にかけたミソカリを担がせて山へ捨ててきてしまった。それから村長は米蔵に山と積み上げた米を売りに出そうとしたが、「村長んとこの米はミソカリのひったクソゴメじゃ。」と噂がたって、どこへ出しても一粒の米も売れず、とうとう村長は身代を潰してしまった。
ところで、猟師のごんぞの話し。
あいかわらず、山で猟をして暮らしを立てているごんぞであったが、ある日いつものように猟をしていると、茂みの中から獣のうなり声がする。恐る恐るかき分けて見ると、なんと変わり果てたあの時の不思議な生き物がごんぞを見上げて苦し気に「コメ・・、コメ・・、」と鳴いているのだった。哀れに思ったごんぞがミソカリを担いで家に連れ帰り、自分と女房の食べる為のわずかばかりの米を分け与えると、なんとミソカリは、小豆大の金のクソをジャラジャラとひるのだった。驚いたごんぞがさらに米を喰わせると、ミソカリはジャンジャンバリバリと小粒の金のクソを止めどもなくひり続けるのだった。そうしてごんぞは、その金で猟をやめて村へ下り、村長となって裕福に暮らしたという話し。
今でもごんぞの屋敷の奥座敷には「ミソ、ミソ。」と鳴くミソカリが大切に飼われているらしい。




