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粉暦515年 ― 群青同盟の誕生

戦争と賠償条約の余波は、大陸の隅々にまで届いていた。

山頂から平野に伸びた群青砲兵隊の影は、恐怖だけではなく「守りの象徴」としても見られるようになった。


最初の同盟者 ― 青麦商会

粉暦515年春、平野南部の大商会「青麦商会」が群青との通商協定を締結した。

彼らはかつて天鳴会の保護下で交易していたが、税の高さと治安の悪化に不満を募らせていた。

群青が提示した条件は「通行税半分・砲兵による全行程護衛」。

この条件を受け、青麦商会は天鳴会との関係を断ち切った。


二番目の同盟者 ― 北槍団

北方草原の遊牧民からなる「北槍団」も、群青に接近した。

彼らは冬の間、群青の山麓に馬を放牧させ、その代わりに弓兵を提供する契約を結んだ。

この契約により、群青は平野戦でも騎兵を運用できる体制を整えた。


同盟勢力の増加

一年も経たないうちに、群青に味方する勢力は十を超えた。

それは大国に対抗するための必然でもあった。


天鳴会の反応

天鳴会は、この同盟網の拡大を看過できなかった。

彼らは北部草原に駐屯していた傭兵団を増強し、群青の交易路を締め上げる作戦を計画。

「群青包囲網」という言葉が、密かに地図の上で動き始めた。


天鳴会本部は、南部大平原の中心にそびえる白壁の都市「鳴京」にあった。

ここで、群青同盟の報告を受けた一人の男が深く椅子に沈み込んでいた。

彼の名は景虎・シュウレン。天鳴会総帥だ。

冷静沈着だが、内面に激しい野心を抱く男として有名だ。

南部都市連合の内乱を収め、外交と暗殺を駆使して天鳴会を拡張させた手腕の持ち主


景虎の机上には、大陸全図が広げられていた。

青い線で引かれた山岳地帯から平野へ伸びる道、その周辺に群青同盟の勢力旗が次々と描かれている。

彼は無言でそれらを指でなぞり、低く息を吐いた。


「山岳民が平野を支配する日が来るとは…だが、ここからが彼らの限界だ」


景虎はそう呟くと、側近たちに命じた。


同盟離間工作

 青麦商会に密使を送り、通行税の倍額を提示して群青との契約を破棄させる。


補給妨害

 北槍団の放牧地に火を放ち、群青の騎兵戦力を削ぐ。


経済封鎖

 南部交易都市で群青製品の輸入を全面禁止させる。


天鳴会と群青同盟の兵力差は倍もある。

景虎は兵力差を数字で確認すると、薄く笑った。


「同盟など脆いものだ。金と恐怖で、いくらでも崩せる」


しかし側近の一人は、群青の砲兵力を恐れてこう進言した。


「総帥、あの砲が鳴京を狙う日は、必ず来ます」


景虎は目を細め、地図の上で鳴京と群青山岳地帯の距離を指で測った。

そして短く告げた。


「その日が来る前に、山を沈める」



青麦商会の動揺

青麦商会の長は群青との契約を誇りとしていたが、天鳴会から届いた密使の提案は甘美だった。

「通行税の三倍を支払う」

「交易路に天鳴会兵を護衛として常駐させる」


群青が提示していた低税と護衛は魅力だったが、金額の差はあまりに大きい。

青麦商会内部で激しい議論が続き、やがて幹部の一部が天鳴会との秘密交渉を開始した。


北槍団の放牧地炎上

夏の盛り、北槍団の広大な草原に火が放たれた。

乾いた草は瞬く間に炎に包まれ、数百頭の馬が焼け死んだ。

放牧民はこれを「山を狙う者の仕業」と噂したが、証拠は残されなかった。

騎兵の数は半減し、群青同盟の機動力は大きく削がれた。


経済封鎖の波紋

南部交易都市では、天鳴会の圧力により群青製品の販売が禁止された。

火薬樽や砲弾を積んだ商隊は港で足止めされ、群青の金庫に入るはずの収益が消えていった。

同盟内の商業勢力からは「山に頼りすぎては共倒れになる」という不満が漏れ始めた。


群青同盟の動揺

この三つの工作は、群青同盟に小さくない亀裂を走らせた。


青麦商会は契約破棄を検討中


北槍団は被害回復に数年を要すると見られる


黒川連合は食糧供給の代価として群青に高額を請求


群青山岳本部の評議会では、同盟の維持に必要な資金と兵力が急速に減っていることが報告された。


報復の兆し

秋の初め、群青砲兵隊は山の北側に新たな砲台を設置した。

その砲口は、天鳴会の北部駐屯地に向けられていた。


群青山中では、次の戦を想定した弾薬生産が昼夜を問わず続けられた。

そして山岳防衛の哨戒線が、平野方向にじわりと延び始めた。


大陸の空気は、再び火薬と鉄の匂いに満ちていった。


誰もが知っていた――次の戦はすぐには終わらないだろう、と。

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