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緑のエルメルダ  作者: 高峰 玲


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8/9

エピローグ、そして……




「手を」


 テラの呼びかけにエドが、次いでジョンが手を重ねた。それから、ようやっとという感じでマークが。


「「「な……っ?」」」


 傍目には、そこには何も投影されていない。しかしなぜか目の前に丸い空間が構築され、その中に浮かび上がる映像が見えた。




 細切れにされ、金属の容器に収集されるエルメルダ。


 いったい何度、どれだけの個体を攫っていったのか、どこかの惑星の岩だらけの大地に、バケツの水を撒き散らすかのように無造作に投げ捨てられる。


 人相の悪い、いかにも身を持ち崩した宇宙船乗り(スペースマン)といった(てい)の男どもが、エルメルダを蹴って誘導し、少しずつ、少しずつ、大きな個体へとまとめあげてゆく。


 その男らと会話しているのは、どこかで見た覚えのある男──とりあえずの体裁は整えられてはいるが、何かを窺うねっとりとした視線、酷薄そうな嗤いを隠そうともしない荒んだ様子は油断できないと警戒心を呼び覚ます。




「……なるほどな、あいつだったわけだ」

 映像が見えなくなると、速やかに手を離してマークは言った。

「だけどどうやって証明する? まさか、辺境の惑星の不思議生物が教えてくれました、って申し出てすんなり通るはずないからなあ」

「えっと、いまのやつ……媒体に記録して、実録証左として見ることってできねぇの?」

 兄の言葉を受けて、ジョンが“月光”に歩み寄りを求めるように尋ねた。

「うん、無理だね」

 あっさりと技術系担当、フィニーが切る。

「科学じゃないから。アレはたぶんエルメルダたちの何かとボクらの──ほんわりとだけある何かのチカラとかの、ファンタジーみたいな合わせ技だから」

「魔法の(たぐい)なのか?」

 物理的な証拠たりえないと聞いてビィ兄弟がしょんもりする。しかし、彼らほどの落胆を見せないマークに女子組は


 ──慣れているみたい?

 ──あっちの世界のこと、わかってる感じよね?

 ──ってことは、レムリアの中でも()()お家の坊っちゃんなのかな?

 ──そういえば、イデルナ陛下の舞を見たって言ってたわよね。

 ──それにメラン家(うち)のことも知ってるみたい。

 ──なのに傭兵(ランス)なんてしてるんだ?


「それはあなたたちもでしょ」


 と。視線だけで会話していたはずが、ついテラが言葉を使ってしまう。


「「「はあ?」」」


 突然の断定に、怪訝な目を向ける男子組。

「あら、いえ、なんでもないのよ」

 ほほほ、と笑いながら誤魔化すフィーネにごめんと目交ぜして、テラは切り替える。

「でも、いまエルメルダたちが伝えてきたことの内容を証言することは、わたしたちにも可能だわ」

「そうね。あの男にはそれでなくても煩わされたんですもの。しっかりと、引導渡してやるお手伝いぐらい、いくらでもしてさしあげてよ」

 フローラの笑みが黒い。無言の圧力を感じてか、姉妹がこくこくと首を動かして同意する。

「そうと決まれば作戦会議だね。カンパニーとも連絡取らなくちゃ! 言っとくけど、ルーニーの通信網は指向性ばっちりだよ。傍受を恐れて直接宇宙船(ふね)を繋げてコンタクトしようなんて考え、ありえないんだからね」

 ジョンが〈ドラゴン〉号を〈ルナ〉号に接舷させようとした理由を聞いて、いちばん呆れたのがフィニーである。いくら旧型の宇宙船だったとはいえ……ひょっとしたら、ルーニーの独断で〈ドラゴン〉号は排除され、その存在に気づいてもらえなかったかもしれない。

「ああ」

 素直にジョンが認める。だが“月光”の面々は彼を救助した後の連結口をルーニーが自らの船内に収容しようとした結果、牽引ガイドが強力すぎて粉微塵に粉砕してしまったという報告を聞いている。少なからず、宇宙船を失わせてしまった認識が負い目になっていた。

 いや、元はといえば非常識な手段を取ったジョンが悪いのだが、決定打を放ったのはルーニーだ。自船の電脳(うちのペット)()()の責任は飼い主が取ると相場は決まっている。

「その話もしなきゃだわね」

 思い出し、そっとため息をひとつ。それから、皆を追って船内に入ろうとしたテラに、最後尾となったマークが話しかけた。


「……良かったな」


「……これのこと?」


 すぐには言葉の意味がわからなかったようで、ややあってテラは手のひらの上でロケットを開いて見せた。光学的な画像が凛々しげな表情でたたずむ少女の姿を結ぶ。

「わたしがお仕えするひとよ。次代のアマゾン女王となられる、ラ・ミューダ殿下」

「イデルナ陛下の姪だな」

 やはりマークはそちらの話題に詳しいようだ。

 金具を操作すると黒髪の少女から栗毛の女性へと画像が変化する。

「わたしを育ててくれたひと。地球文明学者なの」

「ああ、だから地球(テラ)って名前なのか」

 古代文明の研究者が我が子にハニワと名づけるような感覚が、どうしようもなくアレなのだが、美しい青い惑星の名をもらったことは素直に嬉しい。

 次の操作で“月光”の四人の画像になったところで、ロケットを閉じる。この次は、さすがに恥ずかしくて見せられない。

「金に、プラチナを象嵌してあるのか? なんか龍みたいな」

 シンプルな線画のようななだらかな造形は、そのものずばり、龍を模ったものだ。

「テラ〜早く〜」

「はーい」

 通路に顔を出して呼ばう声に、手すりのスカウターに飛びつき、テラは軽く床を蹴る。会話が途切れたことをどう思ってか、少しく肩をすくめて、マークもそれに倣った。




 プロメテ・カンパニーの対応はチーム“ブレス”とマークが依頼を受けている本社から為された。エルメルダたちを拉致した者には大規模な宇宙海賊団がバックについており、いくつかの惑星に()()したエルメルダを持ち込んで未開発の希少金属(レアメタル)鉱床を見つけ、荒稼ぎしていたのだという。

 なんとエルメルダはそのような金属から伝わる地熱を敏感に察知し、惑星規模に分布して岩盤浴よろしく群れ集う性質があるのだという。

 惑星エルメルダに残された巨大掘削機は、あれ以上に掘り下げられない岩盤がそこにあるからであり、あのエルメルダたちはひねもす、そこでのんびりと寛いでいたのだ。

 そんな彼らの身を引きちぎる者どもを手引きしたのは、あのどこまでもしつこい、銀河開発局の職員ガリチョッチョだった。治安維持軍によって拘束された彼は、後に捕らえられた宇宙海賊たちと共に裁かれることになったという。


 だが、そんなことは一介のランスであるチーム“月光”には関与なきことである。

 

 彼女たちに最も大切なことは、愛機〈ルナ〉号をめぐる問題だった。つまり、チーム“ブレス”の乗機である〈ドラゴン〉号の最後を極めたのが〈ルナ〉号による牽引ガイド発動だという事実だ。

 むろん、そもそもは体当たりよろしく接触しようとしたジョン・ビィの愚策が元凶である。しかし「全部そちらが悪い!」と突っぱねられないのが彼女たちなのだ。

 譲歩案はビィ兄弟が次の宇宙船を見つけるまでのあいだ、〈ルナ〉号か代わりとなる宇宙船を“月光”の負担で貸し出すという案だ。だがこれは却下された。エドワード・ビィがランスを引退し、銀河開発局へ──治安維持軍へ入る意志を示したからだ。単独となるジョンに、大きな宇宙船は必要ない。

 そして、次案が採用となった。テラと三つ子にジョンを加えた新生チーム“ブレス”の乗機を〈ルナ〉号とする案だ。


「「「「ジョン船長、よろしくね」」」」


 美少女四人に囲まれた少年は青褪めたという。






 マーク・エールは本星レムリアの、科学文明くさい一角を訪れていた。しっかりと滅菌された病棟は明るくやわらかな色調で、まず、そこに入る者の心に癒しかけてくる。

 所属していた軍関係の病院からここへ送られた経緯は、彼がとある星の王族の血統だからだろうと一考する。

 軽くノックして手動のドアをスライドさせると、ベッド上に座位を取っていた相手は顔を上げた。なるほど、少し顔色が悪い。


「よお、どうだ?」


 何が、とも言わず声をかけると、彼はやんわりと微笑んだ。


「やあ、マーク。そんなに悪くはないよ」


 姿に合ったやわらかな声音で、しっかりとした話しぶりに、内心マークは安堵する。

「エルメルダに行ってたんだって? 俺もカンパニーの依頼で行ってきたよ。宇宙海賊の件はうまくいった。そんで、エドが治安維持軍に入るってさ」

 とりあえずは仕事関係で気になっているのではないかと思うことを伝える。この男は士官候補生ながら作戦に投入され、体調不良のため離脱させられたのだ。

「エド……エドワード・ビィのこと?」

 同じ年齢ということもあり、食事時間などに同席してよく話した相手だ。

「へえ、そうか、エドが。あれ、そしたら弟のジョンはどうするんだい? ひとりで依頼をこなすのかな?」

 手早く椅子を動かしてマークはベッド脇に腰を据えた。

「いやそれが、傑作なことに、あいつ他のやつらとチームを組むことになったんだけど、女の子ばっかり四人のチームなんだ」

「傑作ってなに? 役得でうらやましいの?」

 くすくすと彼の幼なじみは笑う。

「役得、かな? かなり手強いぞ。チーム“月光”って、リクはランスじゃないから聞いたことはないか。メラン家の三つ子とテラ・キャロラインっていう綺麗だけど代理演武(スタント)で有名になった子のチームだ」

「テラ・キャロライン?」

 驚いたように、リク──リチャードは手に握る何かに力を入れた。そういえば、マークがここへ来たとき、彼はそれに見入っていたようだった。

「知ってるのか?」

 意外である。浮ついた芸能界には縁も興味もないはずの幼なじみなのに。

「えっと、映画を見たよ」

 ほんのりと血色がよくなる。

「なんだよ、そんないいもん知ったんだったら、教えろよ〜」


「えっ?」


 彼としては、幼なじみが初めて異性に関心を示した事象を(ことほ)ぐという感覚だった。驚いたように彼を見ているリクの手から、持っているものを取り上げ──懐中時計だ──蓋を開く。


「あっ」

「なんだよ、見られちゃまずいものでも隠してるのか──えっ?」


 双方、次の言葉が出てこない。


「テラ……」


 蓋裏に収められた写真は、彼女だ。


「リク、おまえ……」


 つぶやきが低くなる。

 よく見れば、この懐中時計の蓋は金に金細工の龍が象嵌されている。テラの持つロケットと同じ意匠の、対となるものだ。


「マーク、なぜテラ・キャロラインだなんて呼ぶんだい?」

 しかし、リチャードが発した問いかけはマークの想定外のものだった。

「え、だって、そういう名前だろ」

「エルメルダで会ったんだよね? 個人的な話はしなかった?」

「そんなヒマなんて」

 なかったし、なんなら思っきし叩きのめされたし。

「テラというのは彼女を育てたキャロラインという女性がつけた名前だよ。レセマトーラさまの洗礼で賜った名はテレサリオーネ」

「洗礼で賜った?」

「陛下がアマゾンへ行幸されたときに、仮成人する若い女戦士(アマゾネス)たちに洗礼されたんだ。そしたら彼女がナーガラージャ族の龍を宿す王女だとわかった。ちょうど随行員として僕もその場にいたから、ラージャの王族繋がりで婚約することになった」


「王女? 王族? 婚約? えっ?」


 めずらしくも、マークの情報処理が追いついていない。


「彼女の右腕に龍封じの腕輪があっただろ?」


 あったような気もする。しかし、そんなことよりも、もっと気になるのは!


「おまえの婚約者? で、ナーガラージャの王女、ってつまり」

「君の妹だよ、行方不明だった」


「………………」


 言葉にならなかった。










『緑のエルメルダ』

      ── 了 ──












かなり初稿と変わっていますが、いま書くとこんな感じの『緑のエルメルダ』でした。


これを書いてるあいだに、結構な頻度でTHE ALFEEの『星空のディスタンス』を聴いていたのですが、「これってリチャードの心境に通じるかも」と思ったら、早く彼のシーンを書きたくてしょうがなくなりました。『暁紅の女神の星』のヒュペリオンとの違いがテラとミラージュの違いと同じかもしれません。

閑話でビィ兄弟の短編入れようかと思ったのですが、原稿が発見できず断念。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


次作は……未定。

十日市のようにエッセイは続きます♪




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