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緑のエルメルダ  作者: 高峰 玲


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ちょっと不機嫌そうなひと




 3台のボートが近づいてきていた。


 湖面に浮かぶボートは薄いマットレスのように見えた。するすると肌触りのいい布を袋状にして空気で膨らませ、推進装置として後方への送風を使い、乗り手の微妙な体重移動で方向を操作するのだ。


 ──魔法の絨毯ってこんな感じだよね?


 前回の邂逅で操縦のコツを教えてもらうと、意欲的に上達したのはテラとフィニーの“躍進系”ペアだった。どうしても“保守系”に立ち回ってしまうフィーネとフローラは、この湖を移動するときは優雅にホバーを滑空させるのがいちばんだと合意したらしい。


「これで全部かな?」


 昼食用に〈ルナ〉号の簡易キッチンで調理したり、倉庫から出した非常食の入った箱を運んできた姉たちにフィニーが確認すると、

「お水のパック、もう少しいるかしら?」

 フローラが首をかしげた。

「んじゃ、ボクが取ってくるよ」

 軽い足取りで船内に戻るフィニーを見送りながら、3人は〈ルナ〉号の尾翼に腰を下ろす。いわゆるデルタ翼と呼ばれるその場所は広く、チーム“月光”の4人とチーム“ブレス”の兄弟、そして銀河開発局の地上班と彼らが雇った傭兵(ランス)、総勢10名が集って会合しても、まだまだ周囲には余裕がある。


 〈ルナ〉号が惑星エルメルダに着陸せざるを得なくなって、二日が経っていた。


 ハイパーウェーブ通信により、依頼達成報告は完了している。なので、彼女たちは仕事を終え、再び休暇に戻った状態なのだが……エルメルダに降りた状況が状況だっただけに、速やかな連絡で捜索隊やら救助隊を喚ばれる最悪のシナリオは回避できているにすぎない。

 やがては〈ルナ〉号の備蓄も尽きる。4人としては、その前にフロンティア──学園惑星へ戻りたいとの思いが強い。


 ──なのにねぇ。


 不思議なことに、惑星から飛び立とうと〈ルナ〉号が(メイン)エンジンを始動させると湖から触手が伸びてきて抱きしめるように船体を拘束するのだ。船内環境を維持させるための動力を使う分には触手は反応しない。そして、彼女たちが心配していたような、船内への侵入はなかった。

 エルメルダに着陸(?)した〈ルナ〉号に駆けつけ、外から呼びかけてきた“塔”──降下中に確認していた巨大な掘削機のことである。あの設備は筒状の外壁の中に掘削ドリルがセットされており、外壁部分には作業者が生活するための部屋(ユニット)が組み込まれている──の職員(銀河開発局のエルメルダ地上班)たちも、衛星軌道上の支援船からの送迎艇が捕獲されたことはなく、そもそも湖水が触手化して能動的な動きを見せたのは初めてだという。

 あの後、職員が乗ってきたボートで“塔”へ移送するジョン・ビィに同行しても、触手は追ってこなかった。つまり、エルメルダから離れることだけを阻止しようとしているようなのだ。


「鍵さえあれば……」


 つぶやきながら、テラは服の上から右手首あたりをそっと触れた。

 三つ子については、多少勘がよかったり、姉妹の中でもフローラが特にセンシティブだったりとかはあるが、能力者というほどではない。家系的にも、ひたすら脳筋というか、体得した技術で武門を誇る肉体派閥だ。しかしテラは、15歳の洗礼前には能力が発現していた。魔術・魔力とは違うらしく、俗にいうエスパーとも違うようで、洗礼で授けられた腕輪の封印で、現在、何の能力もない状態で生活できるようになっている。

 あのとき、洗礼者は言った。


「この鍵はあなたの父に渡しておきましょう。“(えら)びの旅”で、いつかきっと会いに行きなさい」


 テラは名誉女戦士(アマゾネス)のキャロラインに拾われ、アマゾンで育った。そんな彼女の父親を、洗礼者は知っているという。

 思えば、この封印を用意したうえで洗礼させるとは、どれだけのことを洗礼者は予知していたのだろう。数年ぶりとなるアマゾン来訪に彼を同道していたのも、はたして偶然だったのか? 


 人ならざる者に翻弄されながらも立ち向かう女王の狡猾さを彼女は想った。


「いらっしゃい」

 尾翼に上陸してきた6人にフィーネが声をかける。想いを中断し、テラも微笑んだ。


「それ、って女子が調理した食べ物?」

「うわ、最高だなぁ」

「まったくだ」

 研究者とおぼしき男3名は武装していない。わくわく、そわそわした足取りでフローラが指定したあたりに腰を下ろす。

 さすがにタダめし喰いは悪いと思ったようで、持参した“塔”の食料を茶髪の男が運んでいる。似ているので、この青年がジョンの兄のエドワード・ビィなのだろう。無法地帯を渡り歩くことに慣れているランスの象徴のように、大ぶりな光線銃が腰のホルスターに収まっている。

 そのジョンはというと、軽快にフィニーに走り寄り、水の箱を受け取っている。ふむ、とその行動を審議するのは3対のまなざし。


「……いや、船室が狭いのは“塔”も同じだからわかるが」

 最後に上がってきた黒髪の若者が苦言を呈す。

「こんなところでピクニックか」


 とたんに三つ子の視線がかすかな冷気を帯びた。〈ルナ〉号の索敵と火器管制をルーニーに任せ、“月光”のメンバーは全員、銃と光線剣を装備している。


「あなたも“剣の時代”まで降りられるのね」


 男が提げているのは大型の銃剣(ガンソード)だ。刀身を光線で作り出して使用する光線剣とは斬撃が違うのだ、とその目が語っている。テラの言葉を挑発と採ったのか

()、ってことは君らもなのか?」

 心底意外だという評価に


「テラ・キャロラインよ」

 まっすぐに視線を男に向ける。


 全銀河で上映された歴史スペクタクル映画の戦闘シーンを代理演武(スタント)した自負がある。作品を観ていなくても、同じカンパニーに所属しているのだ、100億を稼ぎあげたチームの噂ぐらいは聞いているだろう。

「? 芸能部門だろ、ああ、たしかに美人だな」

 取って付けたような物言いに、フィーネの声が低くなる。

「ランスですわ。わたしはチーム“月光”のフィーネ・メラン」

「私はフローラ・メラン」

「フィニー・メランだよ」

 3人とも、さりげなく武器をひけらかすように立つ。こちとら武闘派だっちゅうねん、痛いメ見したろか、このイケメンがっ!──ということを言外に伝える気まんまんである。


「メラン?」


 しかし、黒髪の青年が反応したのはそっちではなかった。


「ひょっとして、君ら、三つ子か?」


 髪色も瞳の色も違うので、初めて会う人間はたいてい、彼女たちは親戚かふつうに姉妹だと思うのだ。

「ええ」

 警戒しつつ、姉妹がうなずくと、納得したように彼は口角を上げた。

「そうか、メラン家の三つ子、聞いている。アマゾンで育てて“択びの旅”に出していると。だったら、“剣の時代”も嘘ではないな。失礼した」

 表情が変わっただけで、好感度が上がった。

「……あなたは?」

 今度ははっきりと笑う。

「俺はマーク・エール、レムリア出身のランスだ」

 青い瞳が明るい色を浮かべた。 

「じゃあ、そっちの君はアマゾンのアマゾネスなんだな?」

 まあ間違いではない。生まれおちた星を知らなかった自分は、アマゾンのテラだ。

「そうよ。“択びの旅”が終わったら、アマゾンの女王陛下にお仕えするの」

 “択びの旅”に出ている者の能力をマークは理解しているようだ。まなざしに、三つ子と同等の敬意が払われているのを感じる。

 レムリアにおけるメラン家を知っている人間ならば、アマゾネスと呼ばれる者がレムリアで、そしてアマゾンで、どれだけの地位を与えられる存在なのかを認識していないはずがない。

 4人もまた、このマークという青年の()()を察し、安堵すると同時に警戒した。()()()()()()()に属する人物なのだ。味方であれ敵であれ、外面(パッケージ)の内側を見せてはならない。


「へぇ、親衛隊に見込まれているのか、優秀なんだな」


 やっぱりなんとなく……言葉の端々に毒のような棘のような、ひっかかりを感じてしまう4人なのであった。











to be continued……

 



とりあえず、最初にボートでやって来たときにジョンを渡して、何度か離脱チャレンジしてもダメだったのでエルメルダ先住者(つまり、詳しい)の“塔”の職員と派遣ランスが説明? 相談? に来ることになりました。




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