君に聞きたい
目をつむる、そうするとどこからか声がする。
そして、決まって同じ問いかけをされる。
‘お前は今までで何をなした?’
俺は答える
「・・・別になにもしてないよ。いつもと同じ日だよ。」
こいつが何なのかは、わからない。それでも、こいつが初めて出てきたのは、今でも鮮明に覚えている。そう、あれは一年前の凍える寒さの冬。その時に、僕は死んだ。
当時、僕は高校三年の受験を控えていた。受験しようとしていたところは、現状では届くことはなかった。ただ、どうしてもそこに行きたかったため、毎日寝ること以外は常に勉強をしていた。今思えば、何かにでも憑りつかれていたと思うくらい異常だった。
十日前、大切な人を失った。母が死んだ。子供救うために行動したそうだ。居眠り運転の車が、子供に突っ込み、そこを母が助けたという漫画でありそうな話だ。ただ、ぶつかってからも意識があったようだ、そんな中、母は最期まで泣き叫ぶ子供に「大丈夫だよ」と言っていたそうだ。それは、まさに母の口癖だった。
僕が、公園でこけたときも「大丈夫」
僕が、中学でいじめられた時も「大丈夫」
僕が、試合で最後にへましても「大丈夫」
はたまた、迷子の子がいても、倒れた人にも「大丈夫」と、
どんな時もそういって、誰にでも優しく温かい手で抱いた。
能天気と思うかもしれないが、それでもよかった。
でも、もういない。そう思うと涙が出ていた。
そして僕は決めた、母のように困っている人がいたら、「大丈夫」と優しく声をかけられ、他人のために命をかけられる人になろうと。
あの日から六日前、支えてくれた人を失った。祖父が死んだ。老衰だそうだ。母がなくなり落ち込む僕を励ましてくれた。頑固おやじを体現したような人だったが、信念のある人で、自分を強く持っていた。昔はよく??られたものだ。箸の持ち方、姿勢、話し方など小さなことから、善悪の区別まで。
祖父はいつも「信じられるのは己だけ」と言っていて、武将か何かかよって思っていた。
祖父は死ぬ前にも同じことを言い、くわえて「でも、頼りたくなったら、人を頼れ。人は一人じゃ何もできない」といった。僕は、どっちなんだよと思った。
それでも、祖父の言葉を心に刻み、祖父のような信念のある人になろうと決めた。
そして、あの「悪夢」のような日、僕を「形作る」最後のものを二つ失った。
まずは、愛をささげた人だ。彼女は、明るく元気それでいて、人のことを思いやれる人だった。そんな彼女は、小学校からの幼馴染だった。小学校の時に引っ越しをしたとき、隣人になり彼女のほうから話しかけてくれた。当時、僕は人との会話が苦手だったが、彼女との会話はなぜか心が安らいだ。
そんなこんなで、小五の冬、私は「あなたとずっと一緒にいたい。」と告白をした。その時の彼女のことは、鮮明に覚えている。彼女は、夏の太陽のような笑顔で「はいっ」といってくれた。今思えば、ずいぶんませていたなと思った。
それから、中学からは別々になってしまった。だが、いじめられたときに相談に乗ってくれた。受験に苦しんでいた時、母や祖父が死んだときも同じように。
だが、自殺した。原因は、高校でのいじめだそうだ。いじめ受けていて人をかばって、自分がターゲットに。それを聞いたとき僕は己を憎んだ。
「なんで相談してくれなかった。どうして気づけなかった。もっと話をしていれば。」
「まだ、好きだと言ってないのに。」
「もう言うことはできない。」
泣いた、声がかれるほど。後悔が消えない。彼女は、「好き」と言ってくれていたのに、私は伝えなかった。言うのが恥ずかしかった。今度会ったときと、先延ばしにし続けた。今度なんてなかったのに。
そうして最後に「僕」が死んだ。
これが俺のあいつと初めて会う前までの出来事だった。
そして、あの夜に現れた。
‘お前は今までで何をなした?’
その時、初めて会ったのにそんな気がしなく
「なにもできなかった」
「大切にしたいものは全部なくした」
「なぁ俺には何かできたのかな」
顔は見えないけどそいつがふっと笑ったような気がして
‘大丈夫、お前のやりたいことをやればいい’
そう聞いてなんだか、懐かしい気がして涙がこぼれた。
「おまえ、いや君は何者なんだ」
これがあいつとした最初の会話だった。それからは、あいつは同じことしか言わなくなった。
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以上が僕が君に話したかった話さ。
え、僕が何者かって?
人であり、神であり、英雄さ
ふははは、冗談だよ、この物語の一人だよ
でさ、僕がこの話をしたのは、君にあることを聞きたかったから
‘君は一体何者だい’
深く考える必要はないよ
この人がありふれた世界で君の役割を聞きたかっただけ
まぁ死ぬ前までに答えてくれたらいいや
じゃっ、またね
君の中で待ち続けるよ