第七話 デスフラメンコディスティニー
【肉ミンチ職人の殺し屋ベン】
【死のフラメンコダンサー】
オリビア・デル・リオはゆっくりとハイヒールで血に染まった石畳の上に、彼女がステップを踏む。
「……これは、私の最終章よ。」
夜明け前の冷たい空気が、旧市街の迷路のような通りを包む中
彼女は、静かに腰を落とし、右足を一歩前へ出した。
カッ…カッ…カカッ…!
乾いた足音が、石畳に響き渡る。
「あなたは……悪者デスネ!!」
声が空に響いた瞬間、
オリビアの脳内に否、この場にいるすべての者の鼓膜にソレアの旋律が流れ出した。
哀しく、情熱的で、魂を焼き尽くすような旋律
それは、死の予兆の合図だった。
「な、なんだ……この空気は……」
オリビアの影が揺れるベン・ハーゲンが思わず一歩、後ずさる。
響くステップ音。
彼女の踊りは、まるで死神の誘い。回るたびに、ベン・ハーゲンを囲むように影が揺れる。
「あなたはここで死ぬ運命にあった 、それが、あなたのディスティニー(宿命)!」
オリビアの殺気が旧市街の全体を覆い、まるでヨーロッパの戦場で血の匂いが充満するようだった。
次の瞬間――
シュッ!
オリビアの手から、一本のナイフが放たれた。
鋭く飛び、ベンの背中に突き刺さる。
「ぐっ!」
続いて、
シュッ! シュッ! シュッ!
「ぐはっ!」
足、腕、肩、腿――
彼女のステップと旋回に合わせるように、ナイフが次々とベン・ハーゲンの肉体を貫いていく。
それはまるで、闘牛士が雄牛を仕留めるかのごとく、
華麗で、冷酷で、致命的な舞。
「オレィ!!!」
情熱的な叫びと共に、オリビアは身体を深く沈み込ませた。
彼女の手に握られていたのはカスタネットではない。
仕込みナイフだった。
カツン。
最後のステップ音が、石畳に響く。
一瞬の静寂。
オリビアは跳ねるように屈み込み――
下から上へ、音もなく刃を突き上げた!
「がはっ!!」
鋭い閃きとともに、ベン・ハーゲンの顎を突き破る。
鮮血が夜明け前の空へ噴き上がった。
その巨体は、まるで闘牛のように前のめりに崩れ落ちる。
ベン・ハーゲン
肉ミンチの殺し屋と恐れられた男は、ついに、静かに絶命した。
石畳、オリビアの立ち姿の前に、倒れ伏した巨体だけが残った。
「あなたはわたしに負ける運命にあった……それが、あなたのディスティニー(宿命)。」
オリビアは、その美しい死を見届けると、赤いドレスをひるがえしながら静かに戦場を後にする。
死のフラメンコダンスは終わった。




