第五話 炎のバルセロナの夜明け前
バルセロナ旧市街。石畳の路地に、まだ夜の名残が漂う。
静寂を裂くように、彼らの足音が重なり合う。正面からは沖田とオリビア、裏手には岡崎と坂本、そして屋根の上を黒猫のように駆ける女・従妹のルシア。すべてが、計画通りに動き始めた。
迷路のような街並みに潜む、ファルコンの手下たち。石像の陰、バルコニーの影、廃屋の裏に、銃を構えた男たちの目が光る。
「行くわよ、沖田。」
「……了解。」
オリビアと沖田は、堂々と正面から歩いていく。彼らの前に、2人のマフィアが銃を構えた。
「何者だ……!」
銃声が響く前に――
「せいやっ!」
沖田の体が一瞬ぶれたかと思うと、次の瞬間には三段突きが炸裂。喉、心臓、そして腹部に、正確無比な貫通が決まる。
マフィアは声を上げることもできず、その場に崩れ落ちた。
一方のオリビア。口にはいつものフリスクを一粒。カチリと噛んでから、ひらりとマントのように翻る。
「バイバイ、ワルモノ。」
すれ違いざま、彼女の手元から閃いた小さな刃が、喉元に滑り込む。
音もなく、ひとり、またひとりとマフィアが倒れていった。
裏手では岡崎が木刀を構え、坂本が無言で敵の背後に回り込む。
「どいたどいた、通るぜ!」
岡崎の声とともに銃声が鳴り、背後から坂本が低い声で囁く。
「おんしゃら、覚悟はえいか?」
バキッ、と鈍い音。坂本の肘打ちが炸裂し、敵が昏倒する。
上空ではルシアがスナイパーライフルで支援射撃を開始。
「オリビア、前方の屋根! 2人排除完了!」
その瞬間
「よぉ、やっと来やがったな。」
石畳の奥から、ベン・ハーゲンが姿を現した。筋肉の塊のような肉体に、背中には巨大なバット。そして左手には鉄製のハンマー。まるで巨獣が歩くような迫力だ。
「弟のカタキをとらしてもらうぜ、オリビアァ……!」
怒りの咆哮と共に、バットを肩から振り下ろしてくるベン。
オリビアはひるまず、鼻で笑った。
「クズヤロウの弟もクズだったけど……」
一歩踏み出し、スカートを翻すようにしてナイフを構える。
「兄貴も、やっぱりクズね!」
バキィィン!!
バットとナイフがぶつかり合う、金属と金属の激突音。火花が散るような一撃に、周囲の空気が張り詰める。
鉄と鉄が唸る中、運命をかけた闘いが、バルセロナの夜明け前に始まった!




