第四話 オリビアとの再会
バルセロナ郊外。灯りの少ない裏通りを抜けた先、小さな倉庫を改装したアジトが現れた。鋼鉄の扉をノックすると、インターホン越しに聞き慣れた声が返ってきた。
「パスワードをどうぞ。」
「……“サンサンサンシャイン、フルパワー。”」
ピッという音と共に扉が開き、中からルシアが姿を見せた。細身のボディに黒のジャケット、変わらず切れ者の雰囲気だ。
「ヨウコソ ワガ アジトヘ。」
中に入ると、そこには数人の仲間たち情報屋、元傭兵、そして技術屋がいた。机の上には港の地図と殺し屋のベン・ハーゲンの動きが書き込まれている。
奥のソファに座っていた女が、くるりとこちらを振り向く。
「ヒサシブリね、みんな!」
黒く波打つ髪、白磁のように透き通る肌。、そしてアニメのプリントTシャツ。あの頃と変わらぬオリビアだった。
「オリビア……お前、変わってねえな。」
岡崎が思わず笑う。
「変わらないワタシに会う事。 それがあなたのディスティニー《宿命》!」
彼女はキリッとポーズを取りながら叫んだ。
「ミカをさらったワルモノを――」
全員が息を呑む。
「――ヤっチけます!!サンサンサンシャイン!」
沈黙のあと、坂本が苦笑しながら呟いた。
「ま、変わらんちや。けんど、そんくらいの気合いがなきゃ、あの筋肉男とはやり合えんわ。」
沖田は腕を組みながら、真剣な顔で地図を見た。
「コロシヤノ名前はベンハーゲン。キュウシガイニイルヨ」
ルシアが無表情で言葉をつなぐ。
「ワタシハ オコッテマス?」
オリビアが、少しだけ表情を曇らせた。
「……ケッコンシキ前日に、親友のミカをサラワレタ。モウ許さない。」
岡崎が彼女の目を見る。
「助けよう。俺たちの手で。美香は、絶対に取り戻す。」
オリビアはぎゅっと拳を握りしめ、静かに頷いた。
「……アリガトウ。ミンナワタシノ、サンサンサンシャインのヒーロー達ココロヅヨイわ。」
坂本がニヤリと笑う。
「そのつもりなら……こっちも協力する理由があるがやき。」
ルシアが端末を操作し、旧市街の詳細なマップを壁に投影する。
「ワタシタチハ三方から包囲シマス。ショウメンはオキタとオリビア、ウラテはオカザキとサカモト、ヤネカラをルシアがイク。」
沖田が短く言う。
「作戦開始は夜明け前。油断すれば命はない。各自、覚悟を決めろ。」
その場の空気が、静かに、しかし確実に張りつめていく。
オリビアは最後に、ポケットから一通の手紙を取り出した。
「……ミカが、このショウタイジョウ見て泣いてくれたんだ。“シアワセにナってね”って。」
岡崎は静かに言った。
「だったら、その願いを叶えてやらなきゃな。」
オリビアは深く頷いた。
「……うん。行こう。戦いは、これからだ。」
オリビアが戦闘服であるフラメンコダンサーの赤いドレスに着替えた。
そして仕込みのカスタネットとフリスクナイフを太ももにフォルダーに入れる。
バルセロナ旧市街の石畳に、彼らの足音が静かに響き始める。




