第四話 帰ってきた日常(完)
豊島ランドで繰り広げられた尾上組と中国マフィア、さらには警察との壮絶な銃撃戦は、翌日の新聞の一面を飾った。テレビのニュースでも大々的に報道され、地下闘技場の違法賭博が明るみに出たことで関係者は次々と逮捕されていった。
尾上哲夫は中国に連行され、そこで処刑された。彼の死とともに尾上組も完全に解散。来王丸もこの世から姿を消し、世の中は少しだけ平和を取り戻した。
そんな激動の数日を経て、俺のもとにもいつもの日常が戻ってきた。
スケート大会と嘘をついて実家に戻った俺は、銀行へ向かっていた。盲目の毒手使いの孫娘、鈴木保奈美さんのために、心臓移植の募金として五百万円を寄付するためだ。寄付金を振り込んだ後に銀行から出る。
すると後ろから、どこか呆れたような声が聞こえた。
「洋介、スケート大会の予選敗退したんだって?」
振り向くと、そこには幼なじみの伊藤美香が立っていた。俺は苦笑いを浮かべる。
「ああ、やっぱり一ヶ月の練習じゃ無理だったよ。」
美香は腕を組みながら、俺の顔をじっと見つめる。
「……ほんとにそれだけ?」
「ん?」
「いや、なんか最近のあんた、妙に落ち着いてるっていうか……。まるで戦場から帰ってきたみたいな顔してる。」
「バカ言うなよ。ただのスケート大会だって。」俺は適当に笑ってごまかした。
「まあいいけどさ。それより、オリビアから連絡があったよ。」
「オリビア?」
「急にスペインに帰らないといけなくなったんだって。」
「……そうか。」
俺は少しだけ目を伏せる。
(オリビア、無事に逃げ延びたんだな……)
「それとね、結婚するって。」
「えっ……?」
驚きに声が詰まる。美香はニヤリと笑って続けた。
「日本人の人と結婚するんだって。沖田さんっていう人。」
「なんだって……?」
俺は思わず声を張り上げた。
「え? 洋介の知ってる人なの? その沖田さんって?」
「いや……その……ちょっとな。」
「ちょっとってなに? どういう関係?」
「ほら、連続通り魔事件の時に名刺を渡してきた刑事だよ。」
「あー! あの人! すごいカッコよかったよね!」
「そうだったか?」俺はとぼけてみせた。
(まあ、実際にはよく逢ったし、よく見かけた……。)
「結婚式はスペインでやるのかな? 呼ばれるよね、私たち! オリビアさんの花嫁姿、絶対に綺麗だろうなぁ……憧れるなぁ。」
美香が夢見るように呟く。
そこへ、突然大きな声が響いた。
「おーい、洋介!新しい技を開発したじゃき」
振り向くと、坂本龍太郎が駆け寄ってくる。
「お前、まだ集団剣術やってるのか?」
「当たり前じゃき!!」
「相変わらずだな、お前は。」
「俺の居合抜刀剣、最高じゃったろうが!」
「まあ、最後の一撃は決まってたな。」
「……ねぇ、何の話?」
美香がジト目で俺たちを見つめる。
「いや、ちょっとな。」
「また私に黙って悪いことしてたんでしょ!」
「道場、そろそろ着くぞ。」
そんな何気ないやりとりをしながら、俺たちは歩き続ける。
いつも通りの日常が戻ってきた。
だが、俺は知っている。
この世界の裏には、まだ多くの悪と闇が渦巻いていることを。
だからこそ、俺はこれからも天誅を下し続ける。
【令和の人斬り《天誅》 ここに完結。(完)】
1ヶ月ちょっとで一気に書きました。私の好きな幕末を書きました。ここまで読んでいただき有難うございました。今後は後日談のオリビアの結婚式の話を書く予定です。




