第三話 豊島ランドの脱出
豊島ランドのスケート場周辺は、大混乱とパニックに陥った。逃げ惑う者たちで、場内はごった返し、次々と戦いの激しさとその結末が決まっていった。
坂上忍は血だらけの金本知憲に手を差し伸べる。
老子と魏王の軍団は完全にスケートリンクとその観覧席を制圧をした。
「金ちゃん、また我々は生き残っちゃったのう。」
「シノブちゃん。今回はホンマに死にかけたぞ。」
「まぁ、こうやって生き残って互いに生きてるだけで幸せやな。」
「全くだ。」
「この先にプライベートジェット機が園内に隠してある。一緒に中国で尾上の処刑ショー見に来るかい?」
「いいや、俺はそういうのを見るのはすかんから、四国に帰るぜよ。」
「女の趣味は合うのに、そういうところは馬が合わないなぁ。」
「そうじゃの。がははは。次に会うのは地獄じゃけん。」
二人は互いに肩を組み、大笑いする。
金本と老子は拘束した尾上を担ぎ上げてスケートリンク場を去った。
岡崎洋介と坂本龍太郎と坂本忍は坂本組が手配した車に乗る。
「刑事の沖田さん、さっき観客席で見たぞ。脱出大丈夫か?」
「彼ひとりなら、どうにかなるでじゃろう。」
坂本忍は答えた。
(それにしても、あの大魏王(老子)まだまだ、現役じゃのう。)
坂本忍は過去に京都で中国マフィア ダブルドラゴンと闘争していた時、魏王の軍団と大魏王(若き日の老子)に坂本組が壊滅寸前まで追い込まれ、自害しかけたことを思い出していた。まさか、今回、自分の命をすくったのが、魏王の軍団とは、人生とは数奇なものだと思いに更けていた。
___________________________
そのころ沖田壮一は、返り血で真っ赤になった状態で従業員出口へと急いでいた。
そこへ、目が見えずに毒液を浴び、お腹にナイフが刺さった。
廊下で下半身をもろ出しで死んでいる疾風の風神こと風間彰を見た。
悪いものには必ず天罰がくだるという悪天必罰教の教えが頭をよぎった。
「オリビアさん、いますか!!」
廊下に木霊する声。
「ソウイチ! ココニイルヨ!」
オリビアは警備室の片隅でうずくまっていた。
「オリビアさん、一緒にここを出ましょう!」
「ソウイチハ ワタシノ サンサンサンシャイン!のヒーロー!」
沖田壮一はオリビアをお姫様抱っこをして従業員出口へと向かう。
「ダイスキダヨ ソウイチ!!」
そう言ってオリビアは沖田壮一の頬に熱いキスをした。
その瞬間、背後から響く重い足音。
「待てぇええ!!」
斎藤一樹と土方敏夫が、鬼のような形相で追いかけてきた。
「沖田ァァァ!!逃がすと思うなよ!!」
「くっ…オリビアさん、しっかり捕まって!」
「ワタシ ソウイチノ 腕ニ ダイジョウブ!」
「なら、行くぞ!!」
沖田壮一は非常口の扉を蹴破り、階段を駆け下りる。後ろでは斎藤と土方が怒号を飛ばしながら追いかけてくる。
「奴を逃がすな!!ここで終わらせるんだ!!」
「しつこいな…!老害は」
階段を降りた先には、薄暗い裏通路。非常灯が点滅し、湿った空気が立ち込める。
「オリビアさん、怖くないか?」
「ソウイチト イレバ コワクナイ…!」
その瞬間、銃声が鳴り響いた。
バンッ!!
「うわっ!」
壁に銃弾がめり込み、粉じんが舞う。
「くそっ、やばいな…!」
「沖田ァ!!観念しろ!!」
「誰がするかよ…!」
沖田はオリビアを抱えたまま、裏通路を全力で駆け抜けた。
「どこまで逃げるつもりだァァ!!」
「ソウイチ アナタト ドコマデモ 逃ゲル…ワタシノ フェイバリットヒーロー…!」
沖田壮一の目がキラリと光る。
「なら結婚して、一緒に…海外へ逃げますか!!」
二人は、豊島ランドの夜の闇に溶け込むように消えていった。




