第一話 魏王の集団
沖田壮一は狭い廊下を歩きながら、手に汗を握っていた。目の前には尾上彰義隊の残党狩りの部隊が次々と迫り、彼は息も絶え絶えで日本刀で必殺の3段突きを繰り出しては、一人また一人を刺し殺し倒していく。
沖田の息は荒く、肩で息をきる。
彼の動きは俊敏で鋭く、一撃ごとに敵が崩れ落ちる、しかし、相手もまたプロの殺し屋。確実に痛手を負いながら、それでも倒さねばならない。沖田の手元が震えていた。
その若い鋼のような体力も限界を迎えていた。突きの威力も少しずつ鈍り、手足が重くなってきているのを感じる。
「もう、だめかもしれない」と、彼は呟いた。
その時、暗闇の先から、静かに足音が響いてきた。沖田はその足音が異常なほどに静かであることに気づいた。何者かが、ゆっくりとこちらへ近づいてきている。恐怖が沖田の体を包み込む。その足音の主が見えてきた。
沖田は反射的に身構えた。足音は、どんどん近づいてくる。そして、暗闇から姿を現したのは。
「魏王…!」
沖田は目を見開く。あの地下格闘場の駐車場で倒したはずの、恐ろしい中国最強の殺し屋の男が自分の目の前に立っていた。
「ここまでか…」
彼は力なく日本刀を地面に置いた。
しかし魏王は何も言わずに立ちつくしていた。
(俺を殺すのではないのか?)
沖田が疑問に感じた時だった。
その後ろからも、また、魏王が現れた。次々と姿を現す魏王に、沖田は脳裏で何度も疑問を浮かべる。
(なぜだ…?)
彼の心は混乱し、思考が追いつかない。
しかし、その答えがすぐに訪れる。沖田の目の前に現れたのは、現実に存在する魏王ではない。彼の心の中で、また別の魏王が現れているような、まるで幻を見ているかのような感覚だった。
(そうか。ここは地獄なんだ)
と沖田は思った。
自分がすでに死んでいるのではないか、そんな気がした。
しかし、さらに不気味なことが起こる。暗闇の中、突如として声が響いた。
「緊急事態でな、わが主がスケートリンク場で危険な状態なのだ、一人でも手駒がほしい、そなた手伝ってもらえんか?」
と優しい言葉で老人が沖田へ語りかける。
沖田はその声に振り向くと、そこに立っていたのは、中国マフィアのダブルドラゴンの老子だった。沖田は息を飲んだ。
「それって、拒否することできるんですか?」
と、彼は思わず尋ねた。すると老子は、にやりと笑いながら答える。
「無理だな。ここで死ぬか手伝うかだ。」
沖田はその言葉を聞き、心の中で疑問が湧いた。
「魏王は人の名前じゃなかったんですね?」
老子は一瞬の沈黙の後、静かに答えた。
「そうだ。魏王は私の分身、私が伝承したものは全て魏王となる。だから魏王は死なない永遠に…」
沖田はその言葉に深く納得した。魏王という存在は、ただの一人の人間ではなく、老子が作り上げた何千、何万の分身であり、彼の意志そのものだったのだ。
「さぁ、これから、反逆者たちに逆襲をしますか。」
老子は冷ややかに言い放ち、沖田と魏王と共に歩みを進めた。
その先には、スケートリンク場が広がっている。空気は冷たく、沖田の目には、すでに戦いの気配が漂っていた。魏王と共に、その場所に向かって歩を進めると、
「準備はできているか?」
老子の声が静かに響く。
老子は口元を引き締め、沈黙の後に歩き出す。その背後には、すでに魏王と沖田が並ぶ。
スケートリンク場へ向かう道は、どこまでも暗く、そして不気味だった。沖田はその足音に耳を傾けながら、自分の運命が何を意味するのかを悟ろうと必死に考えていた。それは、何もかもが計画された運命のようにも感じた。




