第八話 制圧
停電により黒く沈んだスケートリンクに、銃声と怒号が響いた。
特別観覧室の中央、そこに佇むのは、鉄の棒を握りしめたダブルドラゴンの金本。右手に握る鉄棒を乱暴に振り回し、左手のスマホに向かって中国語でわめき散らかしている。
「この状況はどうなっているんだ!!老子ナニシテル!」
怒り狂った金本の叫びが、停電したリンクに反響する。
そんな様子を、坂本忍は静かに見下ろしていた。暗闇に沈んだ氷の世界は、まるで嵐の前の静けさ死の匂い。
次に訪れるのは、地獄の修羅場だと悟っていた。
——バンッ!!
特別観覧室のドアが勢いよく開いた、その瞬間。
「敵が……すごい人数で……対応できま——」
バァン!!
銃声が響き、中国マフィアの幹部がドアノブを握ったまま崩れ落ちる。返り血が壁に飛び散り、彼の体は無残にもドアにもたれかかるように動かなくなった。
そして。
尾上哲夫と風間が、ドアを蹴破りながら観覧室に突入した。
「テメェら……!」
金本が即座に鉄棒を振り上げ、尾上へと殴りかかる。
しかし。
バッ!!
尾上はなんなくその一撃をかわすと、鋭い動きで金本の顔面を鷲掴みにした。
「ぐ、がっ……!」
金本の叫びが響く。
次の瞬間、尾上は金本の頭を地面へと叩きつけた!
ガンッ!!!
鈍い音とともに、金本の体が痙攣する。
そして、尾上は倒れた金本の腕をパイプ椅子に叩きつけると、その椅子に悠々と腰掛け、静かに言い放った。
「……今いっそう、世の中を洗濯してみたくなったそうろう。」
坂本忍が目を細める。
「……わしの先祖の言葉じゃのう。革命家にでもなったのか?」
尾上は薄く笑い、冷たく言い放つ。
「この言葉はな、龍馬の有名な言葉の一部分を切り取っただけだ。」
「ぎゃあああああっ!!」
金本が激痛にのたうち回る。その声があまりにも耳障りだった。
尾上は風間に目を向け、
「豚を黙らせろ!」と指示を出した。
金本は隣の部屋へと引きずられ、風間の張り手の連打を浴びせられた。
——バチンッ!! バチンッ!!
「ぎゃああ!やめろ!やめ……っ!!」
悲鳴が響く中、坂本忍は尾上の特殊部隊に拘束されていた。
尾上は、冷徹な眼差しで坂本を見下ろし、低く言い放つ。
「さっきの続きだがな、坂本は外国人を皆殺しにするため、国家は洗濯すべきだ。そう言いたかったのだ」
……静寂。
坂本忍は、言葉を失った。
尾上は続ける。
「坂本龍馬はあまりに過激な思想の持ち主だった。だから歴史の教科書から削除された。」
氷のように冷たい言葉が、観覧室に響く。
「そう、このように歴史は常に塗り替えられるんだよ。」
尾上は不敵に笑いながら、スケートリンクを見下ろした。
「この状況を見てみろ。今まで弱者みたいに扱われてきた俺が、今は勝者として君臨している。」
そして、手を振り上げ、叫んだ。
「さぁ、お前ら!スケートリンク上で地獄の処刑ショータイムだ!!」
拷問をうけた金本と拘束された坂本忍は、無慈悲にもスケートリンクへと引きずり出されていった。
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スケートリンク場の静寂を破るのは、ギィィィィ……バキィィン!!という不気味な金属音だった。
水だらけとなったスケートリンク場は水が排出され無機質なコンクリートが現れる。
雷王丸が、壁に埋め込まれた剣山パネルを豪快に引きちぎっていく。
雷王丸は200キロの錘を外し、腕首と足首の肌は赤くなっているが、身は軽くなり上機嫌だ。
「カワイガリマス……カワイガリマス……!」
顔を血に染めたまま、雷王丸は楽しげに笑う。鼻の怪我は応急処置されたものの、その眼は獣のように輝き、興奮で震えていた。
ゴンッ!! ズシャァァァ!!
鋭利な剣山パネルがコンクリートの上に放り投げられる。無数の刃が煌めき、凶器と化したスケートリンクが次第に姿を現す。
ここはもう、逃げ場のない地獄の処刑場だ。
雷王丸は剣山を次々と敷き詰めながら、愉快そうに呟く。
「ワルモノ コロス……ワルモノ ショケイ……」
そこへ尾上が歩み寄る。目を細め、不敵な笑みを浮かべながら雷王丸の肩を叩いた。
「ピカリン先生……悪者を全員、殺しましょう。」
雷王丸は一瞬目を見開くと、次の瞬間、顔をくしゃっと歪めて笑った。
「スモウ ヲ トリマショウ……!」
鋭利な剣山パネルが、コンクリートの上で不気味に光る。落ちることすら許されない、まさに死の舞台。
坂本忍はその光景を見つめながら、ぼそりと呟いた。
「……悪趣味じゃのう。」
雷王丸は最後の剣山パネルを敷き詰めると、満足げに大きく息を吸い込んだ。
「ワルモノ……ゼンブ……ゼンイン ショケイ!!!」
冷たいコンクリートの上に、周りは剣山パネルを敷き詰めた。地獄の土俵が完成した。
血と狂気が混ざり合う死の処刑ショーが、今まさに幕を開ける。




