第六話 業火の赤い悪魔
閑静な住宅街に真っ黒な煙が立ち昇る。火事の現場には多くの消防車と救急車が赤いランプと駐車ランプで多くのやじ馬の群集がいた。そして、この家の主である老人は必死に消防隊員の一人に訴えていた。
「わしの妻が……寝たきりの妻が、まだ部屋にいるんです……! どうか助けてやってください!」
一人の老人が、すすで黒く染まった顔を涙で濡らしながら、消防隊員にすがりついた。火の粉が降りしきる中、彼の震える手は必死に隊員の防火服を握りしめていた。
「大丈夫です、今から突入しますから!」
隊員の声は頼もしく響いたが、その瞬間―― 轟ッ! と凄まじい爆音が響き渡った。
老人の家は、まるで地獄の業火に飲み込まれるかのように燃え上がり、瞬く間に激しい閃光と共に フラッシュオーバー(爆発的燃焼) を起こした。熱波が周囲を襲い、消防隊員すら思わず後ずさる。
「う、嘘じゃ……こんなことがあるはずが……!」
老人は燃え盛る家を前に、その場に崩れ落ちた。絶望が全身を貫き、涙も枯れるほどの叫びが口からこぼれる。
「あああああーーー!!! 何でわしがこんな目に遭わねばならんのじゃぁぁぁ!!!」
その悲痛な叫びは、炎の咆哮にかき消されるように夜空へと消えていった。
燃え盛る炎の前で絶望する老人。消防隊員の懸命な救助も間に合わず、フラッシュオーバーによる爆発がすべてを飲み込んだ。人々はただ立ち尽くし、炎の熱に顔をしかめながらも、どうすることもできなかった。
そんな中―― ニタニタ……
群衆の中で、異様な満面の笑みを浮かべる男がいた。黒いスーツに身を包み、革靴を軽く地面にトントンと打ちつけながら、心底楽しそうに燃え盛る光景を見つめている。
(ハハッ……最高のショータイムじゃないか……!)
彼の名は 後藤田 直哉。大物政治家である後藤田 実 の息子。権力と財力を背景に、数々の犯罪をもみ消してきた男だった。
しかし、その実態は 連続放火魔。この一帯で相次ぐ放火事件は、すべて彼の仕業だった。火が燃え上がり、人々が悲鳴を上げる姿を見るのが何よりも快楽だった。
彼は愛車の 赤いランボルギーニ・カウンタック(約8,000万円) を夜な夜な乗り回し、獲物を探しては放火を繰り返していた。警察もすでに彼を容疑者と見ていたが、政治家の息子という後ろ盾のせいで、証拠不十分のまま逮捕には至っていなかった。
だが、 その邪悪な気配を見抜いた者がいた。
岡崎洋介は遠くから、その光景を見つめていた。彼の目には、後藤田直哉の全身から立ち上る 黒い邪気 がはっきりと見えていた。
(こいつが放火犯か、時代が時代なら放火は打ち首獄門、そく処刑だぜ)
燃え盛る業火よりも黒く、醜悪なオーラ。それが後藤田直哉を包んでいた。岡崎の心には、一つの言葉が浮かぶ。
天誅。
だが、今はまだ動けない。決定的な証拠がない以上、闇討ちするわけにはいかない。
岡崎は静かに拳を握りしめた。
次に彼が動く時は、この男に裁きを下す時だ。
岡崎洋介の後ろには、もう一人の男がいた。
「その拳、熱いな……」
そう呟いたのは、 沖田壮一 だった。
刑事でありながら、新選組の末裔でもある沖田壮一。
彼は岡崎の 炎に照らされた赤い拳 をジッと見つめながら、静かに呟いた。