第七話 静かなる豊島ランド
斎藤一樹と土方敏夫と以下七名は、豊島ランドの入り口に辿り着いた。予想していたものとはまるで違う光景が広がっていた。
「……何だ、この静けさは?」
斎藤は周囲を見回しながら呟いた。
皆その異様な雰囲気に気づき、顔をしかめる。
「普段、こんなに静かじゃないはずだ。ダブルドラゴンのマフィア達がうろついていると思ってたが……」
「だが、気配がまるでない。」
斎藤の目は鋭くなった。普段の豊島ランドなら、賑やかな音が鳴り響き、人々の笑い声が遠くからでも聞こえるはずだった。しかし、今はまるで誰もいないかのように、空気が静まり返っていた。
「今日は何かあるのか?」
と、皆が不安そうに問いかける。
「分からん。だが、逆に警戒すべきだろう。」
斎藤は低い声で答えた。
「ここにいないなら、それだけマフィアたちが何かを企んでいる証拠だ。警戒しろ。」
土方が足元を確認し、慎重に一歩を踏み出す。
「気配を感じる限り、奴らが潜んでいる可能性もある。どこかに隠れているか、いや……待機しているのかもしれん。」
「待機?」
「そうだ。」
土方は少し考え込みながら言った。
「何かを待っている。……何か、大きな動きがあると見て、わざと静けさを作り出しているのかもしれん。」
斎藤はその言葉を頭の中で反芻し、周囲を更に鋭い眼差しで見渡した。
「もしや、誰かがこちらの動きを監視しているか、我々を引き寄せようとしているかもしれない。」
その時、風がひときわ強く吹き、豊島ランドの遊具や施設が微かに音を立てた。その音が、斎藤たちの耳に異様に響く。
「気をつけろ。」
斎藤は仲間たちに声をかけた。
「奴らはどこにでも潜んでいる。油断するな。」
「確かに、何かが起きようとしている。豊島ランドの静けさは、逆に異常だ。」
土方は冷静に分析し、周囲を注意深く見回しながら言った。
斎藤はさらに静けさの中に潜む異常を感じ取ろうとし、眉をひそめながら歩みを進めた。
「まずは中に入って確かめよう。だが、慎重に行動すること。」
「分かりました。」
その言葉と共に、斎藤一樹と八名は、警戒を高めながら豊島ランドの中へと足を踏み入れた。だが、心の中には、すでに次の疑念が湧いていた
(この静けさの裏に何があるのか。)
斎藤一樹と八名が静けさに包まれた豊島ランドの中を進んでいたその時、部下の一人が息を切らせて走り寄ってきた。
「報告します、一樹様! 唯一、スケートリンク場だけ灯かりがともっており、人の気配があります!」
その言葉を聞いた瞬間、斎藤の表情は鋭く引き締まった。
「スケートリンク場だと?」
斎藤の目が光り、立ち止まった。
「何かがそこで起きている可能性が高い。……行こう。」
「分かりました。」
八名が素早く部下に指示を出し、警戒を強化する。
「みんな、スケートリンクに向かうぞ! 周囲をしっかりと見張れ。」
部下たちは次々に斎藤に従い、足音を重ねていった。
「斎藤さん、気をつけてください。」
土方が一樹に声をかける。
「もちろんだ。」
斎藤は静かにうなずき、さらに一歩踏み出した。
その後ろで、七名と土方は部下たちに指示を出しながら、斎藤の動きをしっかりと監視している。
スケートリンク場が近づくにつれ、暗闇の中に浮かび上がる灯かりが徐々に明るくなり、その光の中から不気味な空気が漂ってきた。
「全員、音を立てずに行動しろ。」
斎藤は低い声で言った。
「奴らがここで待機しているなら、油断できん。」
スケートリンク場に近づくにつれて、全員の息がピリリと張り詰めた。だんだんと足音が重くなり、まるで時間が引き伸ばされているかのようだった。
「準備はいいか?」
「はい。」
部下たちは息を呑んで答える。
スケートリンク場の明かりが目の前に差し掛かると、斎藤は足を止め、周囲の様子をうかがう。
「慎重に。」
斎藤一樹はゆっくりとスケートリンク場の扉に向かい、部下たちと共にその先に何が待ち受けているのかを感じ取ろうとしていた。
「もしここで何かがあるなら、ここで決着をつける。」
斎藤の決意がその言葉に込められていた。




