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【全話 完結】令和の人斬り 《天誅》 天に代わりて、悪を討つ  作者: 虫松
第六部 決勝

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決勝戦(中)

氷上に轟く雷王丸の咆哮。


大量の汗が蒸気となり、まるで雷雲のように漂う。


「ソロソロ カワイガリマス!!」


雷王丸の言葉に、氷上は一瞬張り詰めた静寂に包まれた。


しかし、その緊張を打ち破るように


「ま・つ・りだ! まつりだ! まつりだぁぁぁ!!!」


坂本が突如、北島三郎の『まつり』を熱唱し始めた。


雷王丸が不思議そうに見ている。


岡崎が木刀を構え、坂本はスケートリンクの左端へ滑り込む。


「まつりだ! まつりだ! まつりだ! 豊年まつり!」


力強く歌いながら、坂本は雷王丸の動きを計るように距離を取る。


「行くぜ岡崎!! 右からはお前! 左からは俺!」


岡崎も木刀を振りかざし、緊張感が一気に高まる。


しかし、雷王丸は目の前の二人を見ながらも、その意識は過去へと飛んでいた。


___________________________


過去(横綱就任式のあの日。)


厳かに響く太鼓の音。場内には緊張感が漂い、観衆の視線が一斉に彼に注がれる。


大銀杏を結い、真新しい化粧まわしを締めた雷王丸は、土俵の中央に堂々と立っていた。


「ヨコヅナノナヲ ケガサヌヨウニ イッショケンメイ ショウジン シマス」


静かに、しかし力強く宣言したあの日。


だが、その後彼は苦悩することになる。


「横綱相撲を取れ」


「卑怯なかち上げを使うな」


横綱には横綱らしい相撲が求められた。


彼の代名詞ともいえる「かち上げ」。


強烈な威力を誇るこの技は、相手を一撃で無力化する雷王丸の必殺技だった。


しかし、横綱になった途端に、それを封じられた。


「かち上げは肘打ちと紙一重だ」


「横綱たるもの、堂々と正面から勝負せよ」


だが、雷王丸にとって、それは自分の相撲を否定されることと同義だった。


本当にそれが「横綱としての相撲」なのか?


横綱としての威厳とは? 横綱としての行動とは?


力士としての誇りと、求められる理想の間で苦しむ日々。


そして、その苦悩の果てに、負け続けた雷王丸は土俵を去った。


___________________________


「まつりだぁぁぁぁ!!!」


坂本の熱唱が、雷王丸を現実へと引き戻す。

氷上に立つ今の自分。


過去に封じたはずの「必殺のかち上げ」が、今蘇ろうとしていた。

雷王丸の拳が、ゆっくりと握りしめられる。


「オレハ カミナリ ライジン ノ カミナリ!!」


ドンッ……!!!


雷王丸が足を大きく振り上げた。


雷神の四股!!!」


バキィィィィィッ!!!!!!!


氷が砕けた!!!


雷王丸の巨大な脚が氷を叩きつけ、リングの表面がひび割れる。

鋭い氷の破片が飛び散り、まるで氷上に雷が落ちたかのような光景だった。


坂本はバランスを崩した。


「しまった!!!」


傾いた足元 崩れゆく氷 逃げ場なし!!!

雷王丸の鋭い眼光が坂本を捕らえる。


「カワイガリマス!!!」


次の瞬間――


バシュッ!!!!!!!!


雷王丸の右肘が跳ね上がる!


必殺、稲妻のかち上げ!!!


ガッ!!!!


坂本の顎が弾け飛ぶように跳ね上がり、視界が一瞬でホワイトアウトする。

坂本の体が浮いた!!!


しかし、雷王丸は止まらない。


「トドメェェェ!!!」

雷神の張り手!!!!!!


バゴォォォォォォン!!!!!!!


雷王丸の巨大な手が、吹き飛ぶ坂本の顔面を真正面から叩きつけた!!!


ドシャァァァッ!!!!


坂本の体が弾き飛ばされ、砕けた氷の上を滑っていく。

完全に意識が飛んだ。


挿絵(By みてみん)


坂本の身体はスケートリンクの真っ赤な巨大な剣山パネルへと吹き飛ばされていった。


「さー かー もー とー!!!意識をとり戻せえーーーー!」


大声で叫ぶ岡崎の拳が震えた。


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