第五話 乱戦
豊島ランドへ続く坂道の途中で悪天必罰教の信者と警察の一派で乱戦となり、また一人また一人と男たちの影が倒れていく。
風が吹き抜けた。
誰の理想が正しかったのか。それぞれの理想を胸に、生き残りをかけた闘いが始まった。
斎藤一樹の警察隊と沖田壮一の悪天必罰教の信者たちが入り乱れ、血と汗が飛び散る乱戦となっていた。
激しく殴り合い、組み伏せ、武器を奪い合う。
だが、戦況は警察側が有利となっていた。
沖田壮一は斎藤一樹と土方敏夫の二人に挟まれ、まったく身動きが取れなくなっていた。
(くそっ……!)
彼は汗を滴らせながら息を荒げた。
(前に進めば後ろから攻撃される。とはいえ後ろにも下がれない。)
完全に追い詰められた沖田は、額に浮かぶ汗を拭うことすらできなかった。
(どうする……どうすればいい……!)
斎藤と土方は、沖田が一瞬でも隙を見せれば一気に制圧するつもりで、じりじりと詰め寄っていた。
(どちらかが動けば、そちらを攻撃され突破されてしまう。)
両者の間に張り詰める静寂。
額から汗が滴り、心臓が激しく鳴り響く。
呼吸を整えようとするが、息が乱れるばかりだった。
だが、沖田の目はまだ死んでいなかった。
(俺がここで終わるわけがない。まだ……俺には果たすべきことがある!)
じりじりと追い詰めてくる斎藤と土方。
その間合いは、まるで刃のように鋭く、重く、逃げ道を完全に断っていた。
だが、彼の中に宿る闘志は尽きていなかった。
「沖田。」
斎藤が、ゆっくりと口を開いた。
「お前は、本当に……自分が正義だと信じているのか?」
沖田は、何も言わなかった。
ただ、静かに斎藤を見つめる。
まるで、その言葉の意味を確かめるように。
(正義、か……そんなもの、誰が決める?)
斎藤は、静かに続ける。
「この国を変えたいのなら、なぜ力だけに頼る?」
(力がなければ、何も変えられない……そんなことも分からないのか?)
「力だけでは、世界は動かない。」
(綺麗事を……! お前に何ができる? 口先だけの正義に、何の意味がある?)
「正義とは、人の数だけあるものだ。」
(だったら……俺の正義も、否定するな……!)
沖田の目が鋭さを増す。
斎藤は、それでも静かに言葉を紡ぐ。
「お前の"正義"は、お前だけのものだ。」
(それの何が悪い? 誰にも御屋形様の邪魔はさせない……!)
長い沈黙が続く。
どちらも動かない。
だが、その時―
「ウゥーー!!」
警察のサイレンが鳴り響いた。
沖田は、ゆっくりと視線を外し、遠くを見た。
(くそっ……時間切れか……!)
ほんの一瞬、迷いが生じた。
だが、その迷いを振り払うように
沖田は目の前の電柱へと走った!
「待て!」
土方が叫ぶ。
だが、もう遅い。
沖田は壁を蹴り、三角跳びを繰り返し、一気に塀の上へと飛び上がった!
「くっ……!」
斎藤が即座に拳銃を構えたが、沖田はすでに向こう側へと姿を消していた。
「沖田ァ!!」
斎藤の怒声が響く。
その瞬間――
「撤退だ!!」
悪天必罰教の信者たちが、一斉に走り出した。
「沖田様についていけ!!」
まるで統率された軍隊のように、彼らは一斉に逃げていく。
警察官たちは応戦しようとするが、混乱の中で取り逃がす者が続出。
中には、武器を投げ捨てて全速力で逃げる信者もいた。
信者たちは塀を乗り越え、路地に消え、公園を抜け、夜の闇へと消えていく。
斎藤は悔しげに拳を握りしめた。
「……クソッ!」
沖田壮一は、逃走をした。追いかけるパトカーとサイレンの音が遠くなる。
「まだまだ、お互いの正義の闘いはつづくな。」
そう呟くと斎藤一樹一派は体制を整え、豊島ランドへ向けて歩みを始めた。




