第三話 選手控室
豊島ランドのスケートリンクの選手控室には、緊張感が張り詰めていた。坂本龍太郎と岡崎洋介は、スケートシューズの紐をしっかりと締め直し、手にした木刀の感触を確かめながら、決勝戦の開始時間まで待っていた。
そこへ、車椅子に乗ったオリビアが現れた。彼女の手首と足首には拘束バンドが巻かれている。
「オリビア、もう退院したのか?」
岡崎洋介が驚いて問いかけると、オリビアはかすかに笑いながら言った。
「アナタたちが負けたら、私ココで、すぐにコロされるのよ。病院は強制退院ダヨ。金本が、私を複数の男に凌辱したあと殺すツモリ。でも、私タダではシナナイワ。」
オリビアの瞳には、鋭い覚悟の光が宿っていた。かつて"死のフラメンコダンサー"と恐れられた殺し屋の顔に、迷いはなかった。
「安心しちょけ、俺たちが必ず勝つきに。」
坂本龍太郎が自信満々に言うと、オリビアはかすかに微笑んだ。
そんな彼女の背後で、車椅子を押していたのは、一人の謎めいた老人だった。岡崎はその老人を一目見て、只者ではないと直感した。恐らく、幾人もの命を奪ってきた者の目をしている。
「彼女のためにも頑張ってくださいよ。」
老人は静かにそう言い残し、オリビアと共に控室を後にした。
一方。 雷王丸の選手控室では雷王丸の横には尾上組の組長、尾上哲夫の姿があった。雷王丸の愛称は「ピカリン」稲妻のように相手を倒すため、世間ではそう呼ばれている。
「ピカリン先生が負けることはないと思いますが、もしもの時は…」
尾上哲夫は雷王丸の耳元で、何やら策を囁く。その言葉に、雷王丸の顔が満面の笑みに変わる。
「カワイガリマス、カワイガリマス。」
「ピカリン先生に合図をおくります。」
「アア、ワカル。…スグ…ワカルアイズ。」
尾上は静かにうなずき、
「いざという時は、全員、悪者達を殺しちゃいましょう先生」
「ワルモノコロス モチロン、モチロン。」
雷王丸の満足そうな笑みがさらに深くなった。
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スケートリンク場の壁にはランダムに複数の巨大な剣を刺した剣山パネルが設置してある。いかに頑丈な雷王丸でも巨大な剣山に刺されば重症の怪我になること間違いなしだ。
中国マフィアのダブルドラゴンの金本はスケートリンク場の中央にある特別観覧室にて右手に鉄の棒を持ち腕を組んで鎮座している。
そこへ老人の押してきた車椅子のオリビアが運ばれてきた。
オリビアと目があい
ニッコリと笑う。
「令和の人斬りが負けて、お前を、なぶり殺すのが楽しみだな。たっぷり痛めつけた後で、バラして犬のエサにしてやるよ。」
唇を上げ狂人のように笑った。
「豚ヤロウガ!気持ち悪いんダヨ!」
とオリビアが叫ぶと
ガン!
金本はオリビアの顔面を、握っていた鉄の棒で横殴りをした。オリビアは気絶した。
その様子を見たいたのは、坂本龍之介の父親であり坂本組の組長である坂本 忍だった。
「金ちゃん、女っちゅうもんは壊れやすいきに、丁寧に扱わんといかんぜよ。」
と金本をなだめると
「おれは豚じゃねぇよ。俺は双子竜のドラゴンだ!だれにも豚呼ばわりさせねぇよ!」
金本は怒りを爆発させ、殴り飛ばさんばかりの勢いで坂本忍を睨みつける。
尾上組の尾上哲夫が、特別観覧室に入って来た。
「なんか、皆さん気が立っておられますねぇ」
と猫なでな声をかけた。
坂本忍は車いすの後ろにいる小さな老人に声をかけた。
「じいさん、久しぶりじゃのう」
すると老人は
「お久しぶりです、坂本様…」
と答えた。そして
「では、この女性とわたくしは、皆様とは別の部屋で試合観戦をさせて頂きますので、これにて失礼を致します。」
といってオリビアの車いすを押しながら特別観覧室を出て行った。
スケートリンク場の選手入り口。ついに、決戦の火蓋が切られる。坂本龍太郎と岡崎洋介、そして雷王丸が、無観客の空欄の席の中、ゆっくりとスケートリンクへと入場していった。会場内にある中国の衛星放送のテレビカメラが彼らをネット配信をしてスマホ画面に映像を映し出す。
張り詰めた空気の中、決勝戦の勝負の幕が上がる。




