第五話 暗殺武術奥義の復活
剣術道場の奥で静寂に包まれた空間の中、幕末の四大人斬り河上彦斎の末裔である河上舟斎は正座し、深く腰を据えていた。身長は150センチメートルの小柄な老人だが、その鋭い眼光は、まるですべてを見通しているかのようだった。
道場の扉が静かに開く。
道着と袴を身にまとい、岡崎洋介が足を踏み入れる。
この道場で、剣を学んだ日々
そして幼いころから抱き続けた悪夢の話を、唯一理解してくれた師匠。
それが河上舟斎だった。
しかし、今日ここに来たのは岡崎洋介ではない。
彼は、岡田以蔵として、この場所に戻ってきたのだ。
暗黒武術奥義の復活のために
河上舟斎は静かに頭を下げ、口を開いた。
「孫の美香から岡田以蔵が命の危機を救ってくれた件をお聞きしました。まずは、200年後の復活、おめでとうございます。」
その言葉に、洋介は薄く微笑んだ。
「やはり、お前は岡崎ではなく……いや、岡田以蔵。」
河上舟斎は、すべてを見通していた。
長い沈黙が流れた。
やがて、河上はゆっくりと立ち上がり、壁にかけられた一本の木刀を手に取る。
その動作は、まるで長年待ち続けた運命の瞬間が訪れたかのようだった。
「……ならば、見せてもらおうか。暗殺武術の剣の真髄を。」
その声は静かだったが、道場の空気を変させるほどの重みを持っていた。
岡田以蔵こと岡崎洋介は、袴の裾を正し、構えを取る。
この瞬間、200年の時を超えた剣が交わろうとしていた。
道場の空気が張り詰める。
河上舟斎が手にした木刀を構え、鋭い眼差しで岡崎洋介いや、岡田以蔵を見据えていた。
「……来い。」
その静かな声が響いた瞬間、河上の体が閃光のように動く。
河上の必殺の逆袈裟斬りを電のような早さで放った。
相手の脇腹から肩にかけて、右下から左上へ斬り上げる技で、これを右切上とも呼ぶ。新選組の隊士すら怖れた必殺の剣である。
並の剣士なら、その斬撃に対応することすらできず、一瞬で斬り伏せられるだろう。
だが
岡田以蔵は、200年前に死んだ剣鬼。
この程度の斬撃、見切れぬはずがない。
「……遅い!」
一瞬、膝を落とす。
そのまま低く身を沈め、逆袈裟の軌道を読んで身を回転させる。
刃がわずかに髪をかすめ、風を切る音が耳を裂いた。
同時に、体を地面スレスレまで沈め
暗殺武術奥義 下転馬脚斬り!
逆袈裟の軌道をかわしつつ、低空で回転しながら刀を振るう。
まるで走り迫る馬の脚を狙うかのような斬撃!
シュッッ!
鋭い剣閃が、木刀の刃が狙うのは河上の膝元。
まるで突進してくる馬の脚を刈るかのような、鋭い剣閃。
「ぬっ……!」
河上舟斎の動きが一瞬止まる。
木刀を振り下ろした瞬間、重心がわずかに崩れ、回避のための間合いを奪われていた。
ズバァンッ!!
気づいた時には、岡田以蔵の刃が河上の脇腹スレスレで止まっていた。
「……一本!」
その声が響くと同時に、岡田以蔵いや、岡崎洋介は静かに木刀を引く。
河上舟斎はしばらく沈黙した後、口元に笑みを浮かべた。
「なるほど……やりおる。」
「……つまり、奥義は完成した、ということか?」
岡崎が息を整えながら尋ねる。
「そうだ。これはもう、お主だけの剣だ。」
河上舟斎は深く頷くと、静かに目を閉じた。
「剣鬼の剣は、200年の時を超えて甦ったのだな。」
岡崎洋介は、自らの手にある木刀を見つめた。
これが、自分の運命なのかもしれない。そう確信するのだった。
【下転馬脚斬り】
下転馬脚斬りとは、走って突進してくる馬の脚を狙い、低空の逆袈裟斬りをしながら体を回転させる技である。この技は、突進する馬の速さと力を避けつつ、その脚を確実に斬るために開発された。
通常の逆袈裟斬りでは馬の突進を交わせず、その一撃で弾き飛ばされる可能性がある。しかし、下転馬脚斬りでは、技の発動と同時に体を低く沈め、馬の突進を引き寄せるようにしながら、逆袈裟斬りを斜め下に放つ。その動きと同時に、回転して自身の体を馬の進行方向から外れた位置に移動させ、無理なく馬の脚をかわす。この回転により、足元に隠れた相手の攻撃も無理なく避けられるとともに、反撃のタイミングも生まれる。
回転の勢いで馬の脚に切り込むため、命中した瞬間に素早くその場を離れ、すぐに次の一手を打つ準備を整える。この技は、非常に緻密で予測不可能な動きが求められるため、熟練の剣士にしか使いこなせない。