第二話 居合抜刀剣
決勝戦の2日前——。
スケートリンクを貸し切った坂本組の若頭 坂本龍太郎は岡崎洋介と最後の闘いの前の調整を行った。
巨大な雷王丸を投げる暗殺武術 【両肩倒立反動地獄投げ】 の投げる練習を何度か試した後。
スケートリンク場は異様な空気に包まれていた。氷上には、木刀を握る二人の男。坂本龍太郎と岡崎洋介だ。
しかし、彼らの目の前には奇妙なものがあった。
雷王丸に見せかけた巨大なバルーン
通称「雷王丸バルーン」(なんか可愛い)
高さ3メートルはあるバルーンが、スケートリンク中央に鎮座している。まるで実物の雷王丸のように腕を組み、鋭い眼光を放っている(ように見えなくもない)。
「よし、これで居合抜刀剣の最終調整じゃ!」
坂本が満足げに頷く。岡崎は呆れたようにバルーンを見つめる。
「なあ坂本……俺たち何やってんの?」
「決まっちゅうやろ! 新集団戦術・居合抜刀剣の完成させるぜよ!」
「……居合抜刀剣って、なんなんだよ?」
岡崎の問いに、坂本はドヤ顔で説明を始めた。
「居合抜刀剣とは、相手の動きを封じるために、心理的揺さぶりと高速移動を組み合わせた最強の戦術ぜよ!」
「……説明になってねえ!」
「例えば、相手が一対一の戦いを想定しちょったとする。そこで突然、左右から同時に猛スピードで襲いかかったらどうなる?」
「……まあ、混乱はするかもしれんけど……」
「さらに! その間に心理的なプレッシャーを与えることで、相手の判断力を奪う!」
「どうやって心理的にプレッシャーを与えるんだ?」
坂本はニヤリと笑うと、突然
「ま・つ・りだ! まつりだ! まつりだぁぁぁ!!!」
北島三郎の『まつり』を熱唱し始めた。
岡崎は慌てて耳を塞ぐ。
「なんでだよ!? なんでお前サブちゃんの『まつり』を歌うんだ!?」
「決まっちゅうやろ! サブちゃんは最高じゃき!! 燃えるからじゃ!!!」
「意味が分からん!」
「心理戦じゃ!! いきなり演歌を熱唱されたら、相手は『えっ!?』ってなるやろ!? そこで動きが鈍った瞬間、俺たちが一気に突っ込む! それが居合抜刀剣じゃ!!」
「そんなアホな戦術が成功するわけ——」
「ほれ! やるぜよ!」
坂本は岡崎の反論を無視し、スケートリンクの左端へ。岡崎は右端へ。
「まつりだ! まつりだ! まつりだ! 豊年まつり」
坂本が熱唱しながら木刀を握りしめる。岡崎は頭を抱えながらも、仕方なく構えた。
「行くぜ岡崎!! 右からはお前! 左からは俺!」
「……もういいわ! やるぞ!」
ドンッ!!!
二人は一気に氷上を駆け抜けた!
まるで新幹線のようなスピードで、右から岡崎! 左から坂本!
そのま「雷王丸バルーン」に突撃!
バシュッ!!!!!
木刀の一撃を受けたバルーンは、猛烈な勢いでクルクルと回転し始めた。氷の上でバランスを失い、コマのように回転しながら
ドゴォォォン!!!
壁に激突。バルーンはボヨン ボヨンと観客席へと跳ねていった。
岡崎は呆然とその様子を見つめた。
「♪これが日本の ま つーーー りーだぁあーよぉぉ♪!!」
魂を揺さぶる北島三郎の演歌「まつり」が歌い終わった。
坂本は満足げに木刀を肩にかける。新集団戦術 居合抜刀剣は完成した。
そんな中、スケート場のスタッフがこっそりスマホで撮影していた。
「なにこれ……」
「演歌+剣術+スケート?」
「まじで意味わからんけど、面白いから撮っとこ」
SNSに投稿されるのも時間の問題だろう。
果たしてこの奇妙な戦術は、本当に決勝戦で役に立つのか
決勝戦の日は明後日、行われるため明日は東京へと旅立つ準備を岡崎洋介は始めるのだった。
新集団戦術【居合抜刀剣】
居合抜刀剣は、瞬間的なスピード・心理的揺さぶり・集団戦術を融合させた新しい戦法である。通常の剣術が「間合い」「斬撃」「防御」に重点を置くのに対し、居合抜刀剣は以下の2つの要素を組み合わせることで、相手の隙を作り、一瞬で勝負を決める。
① 心理戦(演歌による精神撹乱)
戦闘が始まると同時に、北島三郎の『まつり』を熱唱。これにより、相手は「何が始まったんだ?」と一瞬の混乱に陥る。このわずかな時間が、攻撃のチャンスとなる。
なぜ『まつり』なのか?
→ 理由はシンプル。「燃えるからじゃ!」(by 坂本龍太郎)
実際の効果
→ 対戦相手は「何これ?」と困惑し、戦闘態勢を崩す可能性が高い。音楽のリズムに気を取られた瞬間、次のステップへ移行する。
② 超高速同時攻撃(左右挟撃)
心理的に揺さぶられた敵に対し、左右から同時に突撃を仕掛ける。
右側:岡崎洋介が高速で駆け抜け、フェイントをかける。そして振り向きざまに居合をかかる。
左側:坂本龍太郎が木刀を振り抜き、主攻撃を仕掛ける。
この動きにより、相手は左右どちらに対応すべきか判断できず、身体の動きが鈍り、2人が居合を時間差で抜き駆け抜ける。新戦術である。




