第十一話 スケートリンク場へ
「決勝戦はスケートリンクで氷上デスマッチ、しかもワシとお前 対 雷王丸の2対1のハンデ戦じゃき」
病院で坂本龍太郎がニヤリと笑いながら告げた。
次の日、俺は、坂本龍太郎と伊藤美香と一緒に町のスケートリンクへとやってきた。人生で数えるほどしかスケートをしたことがない俺にとって、氷の上で戦うなんて悪夢でしかない。
一歩足を踏み入れると、スケートリンク特有の冷気が肌を刺し、俺は身震いした。
「ようし、まずはワシのお手本を見せちゃるき」
龍太郎は軽く勢いをつけると、氷の上を滑りながら片足でターンし、そのままダブルアクセルを決めた。華麗に宙を舞い、軽やかに着地する姿は、まるでプロのフィギュアスケーターのようだった。
「どや? これぐらいできんと、氷の上では戦えんぜよ?」
俺は唖然とした。
「お、お前……本当にスケートできるがか……?」
「ははは! 姉貴がフィギュアスケートやりよってな、ワシもガキの頃からスケート教室に通うちょったがよ。まぁ、素人とはレベルが違うっちゅうことじゃ」
余裕たっぷりの龍太郎が俺を挑発するようにくるくると回りながら滑る。スピンしながらスピードを上げ、最後は片足でシャッと氷を削りながらピタリと止まった。
「おまん、戦う前に自分の足元気にしたほうがええがやないか? 氷の上でまともに立てるんか?」
龍太郎の言葉が胸に突き刺さる。俺はすでに自分の限界を感じていた。
「洋介! まずは立つところからよ!」
美香が俺の両手をギュッと握る。
「お、俺はスケートなんて全然やったことないんだが……」
「いいから! まずはちゃんと立って!」
スケート靴を履いて氷の上に降りた瞬間、俺の足はガクガクと震えた。氷の上に立つというだけで、こんなに不安定になるものなのか。
「うおっ……!? やばい……!!」
美香がいなければ、確実にその場で転んでいた。だが、俺はすでに手を繋がれたまま、プルプルと震えている。まるで生まれたての小鹿のように。
「ちょっと! 何よその姿勢! 腰が引けすぎ!」
美香が厳しい目で俺を睨む。
「だ、だって、怖えんだよ……!!」
「そんなこと言ってる場合じゃないの! 背筋を伸ばして、重心を前に倒すの!」
美香がグイッと俺の背中を押す。
「うおおおっ!? こ、こけるこけるこける!!」
「腰が曲がってるって言ってるでしょ! それじゃあ介護されてるおじいちゃんみたいじゃない!!」
「そ、そんなに言うなよ……」
「言うわよ! 3週間後にはスケートの大会があるんでしょう! こんなんで戦えるわけないでしょ!!」
美香の説教は止まらない。俺の腕をしっかりと支えながら、徐々に歩かせようとする。
「一歩ずつでいいから、前に進むの!」
「わ、わかった……」
俺は恐る恐る足を前に出す。だが、氷の上の不安定さに耐えられず、バランスを崩して――
「うわっ!!!」
ズデーンッ!!!
思いっきり尻もちをついた。
「もう!! だから言ったでしょ!!」
美香が呆れた顔で俺を見下ろす。
「す、すまん……」
すると、龍太郎がクスクスと笑いながら俺の前にやってきた。
「ぷっ、ははははっ!! おいおい、そんなのでマジで戦う気か? ワシに勝つどころか、戦場に立つことすらできんがやないか?」
そう言うと、龍太郎は俺の目の前でスピードを上げ、氷上を自在に舞うように滑り始めた。
「くそっ……!!」
俺は悔しさで拳を握る。
龍太郎はさらに俺を挑発するように、連続スピンから華麗なステップを披露し、最後に俺の目の前でスライディングしてピタリと止まった。
「どうじゃ? ワシに勝てる気、あるがか?」
「……っ!!」
俺は言葉を詰まらせた。
氷の上で自由自在に動ける龍太郎に対し、俺は立つことすらままならない。
決勝戦まであと3週間。果たして俺はスケート場で剣を振るい闘えるようになるのか!?
不安で眠れない夜が続きそうである。




