準決勝 第二試合 一回戦(中)
「オレィッ!!」
歌い手の掛け声とともに、フラメンコの第一曲が終了した。音楽が一瞬の静寂を迎えたその刹那、オリビアの目に飛び込んできたのは、四方八方に散らばる無数のマキビシ。
「…コレワ?」
気づいた時にはすでに遅かった。岡田以蔵は戦いの最中、下転馬脚斬りを放ちつつ、巧妙にマキビシをばら撒いていたのだ。
「ワタシの逃げ道はナイ… それが私のディスティニー(宿命)」
オリビアは静かに呟いた。その赤いフラメンコドレスが舞うたび、まるで血のしぶきが闇に溶けていくかのようだった。
次のフラメンコの曲が演奏が始まった。アレグリアスだ!
「違うぜ、オリビア。運命は自分で切り開くものさ。人に決められるもんじゃねぇ。」
岡田以蔵は鋭く言い放つと、低く構えた体勢のまま、刀を後ろ手に構えた。 まるで獲物を狙う狼のように、静かに、確実に次の一手を見据えていた。
まるで四面楚歌!背水の陣!
オリビアが動く!
両手にナイフを握りしめ、高く跳び上がると回転しながら両刃を振り下ろす。
ダンゴムシ!!(回転両斬り)
回転するその刃は、まるで死神の鎌のように岡田以蔵の首を狙う。しかし、次の瞬間
岡田以蔵が沈み込む。
全身の筋肉を収縮させ、一瞬の弛緩とともに刀を振り上げた。
斜めへ上空への袈裟斬り!!
空中で交錯する刃と刃。金属の激しい悲鳴が闘技場に響き渡る。
衝撃でオリビアの体が一瞬ふわりと浮いたその刹那、岡田以蔵はさらに跳躍し、上空から真下へと刀を振り下ろした。
暗殺武術・ハサミ斬り!!
オリビアもただの踊り子ではない。空中で瞬時に判断し、体を縦回転から横回転に変えて刃を回避した。
だが
着地したその先に待ち受けていたものは、地獄のマキビシたちだった。
「……ッ!!アアアアア! アアアアア!」
オリビアの悲鳴が響き渡る。
彼女の赤いドレスが翻るたび、無数のマキビシが肌を貫き、深紅の血が滲み出る。踊りの美しさとは裏腹に、その姿はまるで血に染まる蝶のようだった。
膝をつき、肩で息をするオリビア。だが、その目の奥にはまだ消えぬ炎が灯っていた。
( 決着はまだついていない。)
岡田以蔵が血に濡れた刀を軽く振り、付着した血飛沫を振り払う。そして、目の前で膝をつくオリビアを見下ろし、嘲るように言った。
「血だらけの身体じゃ、オマエを抱くのにちっと大変そうだな。」
その言葉がオリビアの耳に届いた瞬間、彼女の瞳に怒りの炎が燃え上がる。
「……アナタも、他の男とオンナジ! 結局、男は女を抱く道具としか思ってない!」
激昂するオリビアの脳裏に、忘れもしない記憶が蘇る。
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過去の自分。
彼女の父親は変態だった。
夜になると、あの男は決まって酒臭い息を吐きながらオリビアの部屋へ入ってきた。最初は殴るだけだった。
「口答えするな。」
「お前は俺の娘だろうが。」
怒鳴りながら拳を振り下ろす父親。オリビアの小さな身体は何度も壁に叩きつけられた。だが、やがてそれだけでは済まなくなった。
あの男は、娘であるオリビアの身体を汚すことをやめなかった。
「やめて……パパ、やめて……!」
どれだけ泣いても、叫んでも、誰も助けてはくれなかった。
オリビアの唯一の救いは、テレビの中にいた。
『サンサンサンシャイン』の主人公──
悪を打ち砕き、弱き者を救うヒーロー。
「なんで……?」
幼いオリビアは、画面の中の彼に必死に訴えた。
「サンサンサンシャインは悪者を倒してくれるのに…… なんで私を救ってくれないの?」
テレビの中のヒーローは、笑顔で拳を突き上げていた。だが、その拳が、彼女を地獄から引き上げることはなかった。
そして、少女は大人になった。
もう、誰にも頼らない。
ある夜、オリビアは台所から包丁を持ち出した。
寝ている父親の枕元に立ち、震える手で刃を構える。
「……さよなら、パパ。」
躊躇いは、一瞬だった。
鋭利な刃が肉を裂く感触を、今でも鮮明に覚えている。
父親の呻き声が響く。
もう二度と、私を傷つけることはない。
オリビアは、家を出た。
そして、殺し屋として生きる道を選んだのだった。
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オリビアはハイヒールの靴を脱ぎ棄て ドレスを破り裸足でダンスステップを踏む。
「あなたは悪者デスネ!」と叫んだ
必殺技 『 デス・フラメンコ・ディスティニー』のソレアのフラメンコの曲がかかる。
「違うぜ、オリビア……俺は人斬りの極悪人だ!」
岡田以蔵は暗殺武術奥義 浮遊影 走り抜き斬りの構えを始めた。
お互い最後の奥義を繰り出す準備が始まろうとしていた。




