第三話 剣士と刑事、新選組の末裔
早朝の静寂を切り裂くように、ニュース速報が流れた。
「先日の連続通り魔事件と思われる男が、昨夜、自らのナイフを心臓に突き立て自殺しました。」
この報道により、事件は幕を閉じたかのように思われた。
だが、一人の男はその結末に納得できずにいた。
斎藤一樹警視庁の刑事。
その鋭い眼差しが、捜査資料の上を這う。
「自殺ねぇ…ありえねぇ」
無精ひげを撫でながら、彼は眉をひそめた。
「どう思う? 土方。」
声をかけられたのは、部下の土方敏夫だ。
落ち着いた顔で書類をめくりながら、静かに口を開いた。
「確かに不自然ですね。目撃者はいない。現場には犯人の指紋しか残っていない。なのに、ナイフの刺さり方が妙に正確すぎる。」
斎藤は短く息を吐くと、デスクの上の資料を指で弾いた。
「普通、人間は心臓に刃物を突き立てる時、無意識に躊躇するものだ。 だが、今回の死因は心臓のど真ん中……しかも、一撃。 まるで剣の達人が突きを決めたみたいだ。」
「……ということは?」
「"誰か"が手を下した可能性が高い。」
斎藤の言葉に、もう一人の部下が反応した。沖田壮一。
まだ若いが、鋭い感性を持つ刑事だ。
「つまり、通り魔を"処刑"した者がいる……?」
斎藤は目を細め、天井を見上げた。
「それも、相当の手練れがな。」
場の空気が張り詰めた。令和に人斬りが現れたという受け入れがたい事実を想像した。
そのとき、交番勤務の警官から情報が入った。
「刑事さん、事件当日の夜に、ある老人が妙な目撃証言をしています。」
「妙な?」
「はい。事件現場の近くで"若い男が女性を担いで歩いていた"と。」
「女性を担ぐ……?」
「ええ。老人が声をかけようとしたら、男は鋭い目で睨みつけ、まるで獣のような気配を放っていたそうです。」
斎藤は目を細めた。
「女性はどうなった?」
「それが……男が路地に消えた後、どこにも姿が見当たらなかったそうです。」
「つまり、女性が意識を失っていた可能性がある……?」
土方が腕を組み、沖田は腕時計を確認しながらつぶやいた。
「担がれていた女性が、事件の目撃者かもしれませんね。」
斎藤はしばし沈黙し、考えを巡らせた。
やがて、ゆっくり使い古したコートを羽織る。
「土方、沖田、すぐに調べるぞ。」
「了解です。」
警察の追跡が、始まった。
その先に待つのは、"暗殺武術"として目覚めた少年 岡崎洋介の影だった。