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【歴史ランキング12位達成】令和の人斬り 《天誅》 生れ変った岡田以蔵  作者: 虫松
地下格闘闘技場の参加者

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第8話 忘れられたジャングルの王

かつて、彼は“ターザン”と呼ばれていた。

それは名前ではなく、畏怖だった。


鬱蒼とした熱帯のジャングル。

湿った空気が肺にまとわりつき、無数の虫の羽音が低くうなっている。


幼い彼は、裸足でそこに立っていた。

名前も、言葉も、帰る場所もなかった。


探検隊の事故。

濁流。

暗転。


気がついたとき、彼はジャングルの奥深くに一人でいた。


腹は減り、喉は焼け、夜になると獣の咆哮が四方から迫ってくる。

何度も死にかけた。


そして、その日が来た。


川辺で水を飲もうとした瞬間、

水面が不自然に盛り上がった。


次の刹那、

巨大なワニが牙を剥いて飛び出した。


逃げる暇はなかった。

恐怖で身体が凍りつき、喉から声すら出ない。


ワニの口が開き、

生臭い息が顔にかかった――


その瞬間だった。


ドンッ!!


地鳴りのような衝撃。

黒い影が彼の前に落ちた。


それは――

銀背シルバーバックのゴリラだった。


巨体。

岩のような筋肉。

背中に走る銀色の毛並み。


シャバーニ。


ジャングルの王。


シャバーニは一切の躊躇なくワニへ突進した。

拳が振り下ろされ、顎が砕け、

水面が血で染まる。


咆哮一つで、森そのものが震えた。


ワニは逃げた。

いや、逃げるというより、生き延びることを許されただけだった。


幼い彼は、その場に崩れ落ちた。


震える身体。

止まらない涙。


シャバーニは彼を見下ろし、

しばらく黙っていた。


そして、巨大な手で、そっと頭に触れた。


それは支配でも威嚇でもなかった。


承認だった。


その日、人間の子はジャングルに迎え入れられた。

彼はゴリラのシャバーニと共に生きた。


果実の採り方。

獣の匂いの読み方。

危険なものと、そうでないものの違い。


言葉は不要だった。

身体が覚え、筋肉が答えた。


木々の間を飛び、

猛獣と対峙し、

恐怖を恐怖として受け入れる術を学んだ。


人間の子は、

やがて

ジャングルの子になった。


ゴリラのシャバーニは父であり、王であり、掟だった。


18年。


彼は人間社会を知らないまま、

完全な野生として完成していった。




ある日、銃声と金属音が森を切り裂いた。


探検隊だった。


捕獲網。

麻酔銃。

光。


シャバーニは最後まで抵抗したが、

人間の数と道具の前に、ついに引き離された。


彼は叫んだ。

だが、シャバーニの声はもう聞こえなかった。


文明は彼を“発見”した。


「現代のターザン」

「ジャングルの王子」

「野生と共に生きた男」


テレビ、映画、雑誌。

彼は世界のスターになった。


「ターザン、私をお姫様抱っこして!」

「ねぇ、本当にライオンと戦ったことあるの?」

「ジャングルで恋愛ってどうするの?」


女たちは熱狂し、

男たちは畏れと羨望を向けた。


だがエンタメは消費される。


飽きられる。


数年で、すべては終わった。



◇◇◇


今の彼は、

薄暗いアパートでペンキを塗っている。


ペンキの匂い。

無言の時間。

誇りの行き場はない。


「……俺は人気者だった。ジャングルの王……ターザンだった……」


誰も覚えていない。


その肩を、誰かが叩いた。


「おい、ターザン。」


振り返ると、黒いサングラスをかけた男が立っていた。タバコの煙を燻らせながら、口元に冷たい笑みを浮かべている。


「……誰だ?」


「世間に見捨てられた気分はどうだ? だがな……俺たちはお前を忘れちゃいねぇ。ジャングルの王よ……もう一度、世間に復讐しねぇか?」


男は懐から一枚の写真を差し出した。そこに映っていたのは地下闘技場。血と汗にまみれた戦士たちが、観客の歓声の中で殴り合い、倒れ伏し、そして立ち上がる。


「お前の身体には、まだ獣の血が流れてるはずだ。人間社会で見下され、忘れられて、終わるつもりか?」


ペンキの匂いが充満する中、彼はゆっくりと写真を見つめた。


(ジャングルの王よ、再び目覚めろ。)


サングラスの男が口角を吊り上げる。


「みんながお前を待ってるさ。さぁ、行こうぜターザン。」


差し出された写真。

地下格闘技場。


血と歓声。

獣の世界。


彼は、ペンキローラーを落とした。


「……あそこなら、俺は生きられる」


ゴリラに育てられた爆発的な野生の力。

かつてジャングルを支配した男は、再び戦いの場へと足を踏み出した。




日本行の飛行機の中。

初めての空。


シャバーニ・ジュニアは、窓の外を見つめていた。


遠く離れた大地のどこかに、あの銀背のジャングル王がいる。


「見てろ……シャバーニ父さん」


地下格闘技場。京都。


ジャングルの王は、檻を変えて帰ってきた。


______________


【アフリカギャング 登録選手】


https://8938.mitemin.net/i940726/


名 前:シャバーニ ジュニア

年 齢:35歳

職 業:ペンキ塗り

性 格:悲観的

二つ名:ジャングルの王


背景:幼いときにジャングルで迷っていたところをゴリラのシャバーニに助けられて18年間ジャングルの王として生活する。探検隊に見つけられて人間の世界に戻ってくるが。世界の人から忘れられる。人間社会に復讐をするために地下格闘技場へ参加を決意する。





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