第一試合 二回戦(上)
【令和の人斬り】
【盲目の毒手使い】
VIPルームの巨大モニターに映し出される二人の選手
京都の地下闘技場の薄暗い闘技場の中央に、二人の戦士が入場する。
周りは無機質なコンクリートの壁と金網に囲まれている。
場内に響くアナウンス。
「倍率発表! 令和の人斬り 1.7倍…盲目の毒手使い 8倍!」
「圧倒的人斬りが有利だな。」
金本は腕を組みながらつぶやく。
「こりゃ賭けにならんな。盲目で爺さんじゃ仕方ないか。」
岡崎洋介は闘技場の中心で腕を回し、鎖鎌の感触を確かめていた。戦いの準備は万端だ。しかし、その視線の先で、盲目の毒手使いのしわがれた老人が、杖を突きながらゆっくりと金網へと歩いていく。
「申し訳ない。私は目が見えないんです。」
老人はか細い声で言った。
「金網がどこにあるかもわかりません。周囲を確認させてもらってもよいでしょうか?」
金本は舌打ちをし、「仕方ないな、確認しろ」と言い放つ。
老人が金網に手を這わせると、闘技場の場内に異様な臭気が立ちこめた。
(くっ…クッセェ!!)
岡崎は思わず顔をしかめる。
まるで長年風呂に入っていない浮浪者のような悪臭。アンモニアの刺激臭が鼻腔を焼き、内臓まで腐りそうな感覚に襲われる。鼻がひん曲がりそうなほどの異臭だった。
「うぅ…」
審判員も顔を覆う者が出始めた。
老人は金網に手を這わせながら、ゆっくりと歩き始めた。まるで何かを確かめるように。その様子を観察していた岡崎は、ふと気づく。
(こいつ…砂を落としている…!)
老人の衣服から、細かい砂粒が舞い落ち、わずかに音を立てる。そのわずかな音の反響で、岡崎の位置を探ろうとしているのか…?
(盲目のクセに、ずいぶんと器用な動きだな。)
さらに、老人は歩きながら、自分の腕に口を近づけていた。唇を毒手に擦りつけるようにしている。
(口で毒を吸ってやがる…!)
次の瞬間、ゴングが鳴り響いた。
カシャーン!!
岡崎は鎖鎌を振り回す。鎖が遠心力を持ち、軽快な音を立てながら回転し始める。
「どこにいるかわからんのう…」
老人は呟きながら、ふらふらと歩く。
(とぼけやがって!)
岡崎は一気に分銅を前へと振り抜いた。
ゴンッ!!
分銅が老人の肩に直撃した。
「いったぁぁぁ!!」
老人は地面に転がり、痛みに悶えながら涙を流すようにして叫ぶ。
「痛い!痛い!わしは目が見えないんじゃぁぁぁ!!」
その瞬間、岡崎の背筋がゾワリとした。
(……なんだ、この違和感は?)
老人は地面に膝をつきながら、淡を吐き、岡崎の周りをぐるりと回るように動き始める。そして、左目を右手で覆いながら、杖を握る手だけを露出させていた。
岡崎の目が鋭く細まる。
(左目を…隠してる? いや、違うな…杖でガードしてる…!?)
そこではっと気づく。
(まさか、この爺さん…右目は見えないが、左目は見えてやがるのか!?)
岡崎は静かに舌打ちした。
(こいつ…盲目を装っている…)
今までのすべてが伏線だった。砂を落として音を探るのも、痛がる演技も、すべては相手を油断させるため。
まさに、この老人の人生は、嘘をつき続ける人生だったのだ。
(わが、毒淡の威力をみるがよい。)
岡崎洋介の周りには、老人の口から出した毒淡が異様な臭気を出し。毒霧を噴射していた。
(くっ…!? なんだ、この臭いは…!?)
岡崎は息を止めようとするが、すでに遅かった。老人が吐き出した毒唾とともに、異様な気体が周囲に広がっていく。
(周囲が歪んで見える)
岡崎洋介は膝をついた。毒淡の威力はすさまじく、意識がもうろうとする。
老人は笑みを浮かべた。そして、とどめの左の毒手を刺すために倒れかけている岡崎洋介へ全速力で走りだした。
「わしの勝ちじゃあああああ!!!!」
盲目の毒手使いは倒れかけている岡崎洋介の腹を毒手で刺しぬいた。
毒手に血が滲むそして鎖鎌をもつ岡崎洋介は
口から大量の血を吐いた。
うっすら見える左目から鎖鎌をもつ岡崎洋介の身体が仰向けに後方に沈み込むのを見た。




