第七話 忘れられた男
かつて、彼は“ターザン”と呼ばれていた。
鬱蒼と茂るジャングルの奥深く、幼い彼はワニに喰われかけていた。牙が今にも喉元に食い込もうとした瞬間、強大な影がその前に立ちはだかる。
それが、誇り高き銀背のゴリラのシャバーニだった。
シャバーニは巨腕でワニを叩き潰し、彼を救った。それが、ターザンの誕生の瞬間だった。
ジャングルの王のターザン。
彼はシャバーニに育てられ、木々の間を飛び回り、猛獣を狩り、野生の力をその身に宿した。人間社会とは無縁の世界。だが、ある日、探検隊に発見されたことで彼の運命は一変する。
スター時代
ターザンは世界のアイドルだった
ジャングルから連れ戻されたターザンは、一夜にして世界的スターになった。
「現代のターザン、文明社会に降り立つ!」
「ジャングルの王子が語る、野生の掟!」
「猛獣と育った男、美女たちのハートを鷲掴み!」
テレビは彼をこぞって取り上げ、雑誌の表紙を飾り、映画やCMに出演。バラエティ番組では彼の野生的な魅力が話題となり、無邪気な言動に女性たちは熱狂した。
彼のたくましい肉体、鋭い眼光、動物のようなしなやかな動き、それらすべてが、都会の女たちの心を刺激した。
「ターザン、私をお姫様抱っこして!」
「ねぇ、本当にライオンと戦ったことあるの?」
「ジャングルで恋愛ってどうするの?」
彼が参加するパーティーには、モデルや女優が押し寄せた。高級ホテルのスイートルームには彼を求める女たちが列をなし、ターザンはまさに野生のカリスマだった。
だが、その栄光は永遠には続かなかった。
スター時代はわずか数年で終わりを迎えた。新しい話題が次々と登場し、テレビはターザンを必要としなくなった。
彼はどこにも居場所を見つけられなかった。映画もバラエティも声がかからず、雑誌の表紙を飾ることもない。やがて、金も尽き、家もなくし、働かなければならなくなった。
ペンキ塗り、それが、今の彼の仕事だった。
高級ホテルのスイートルームではなく、狭く薄暗いアパート。香水の匂いではなく、ペンキの匂い。ファンの嬌声ではなく、ペンキが滴る音。
学のない男ができる仕事といえば力仕事か単純な作業の仕事しかない。
父親の手伝いで、わずかばかりの給料を得る。
「……俺は人気者だった。ジャングルの王……ターザンだった……」
誰もが彼のことを忘れた。
そんな彼の肩を、不意に誰かが叩いた。
「おい、ターザン。」
振り返ると、黒いサングラスをかけた男が立っていた。タバコの煙を燻らせながら、口元に冷たい笑みを浮かべている。
「……誰だ?」
「世間に見捨てられた気分はどうだ? だがな……俺たちはお前を忘れちゃいねぇ。ジャングルの王よ……もう一度、世間に復讐しねぇか?」
男は懐から一枚の写真を差し出した。そこに映っていたのは地下闘技場。血と汗にまみれた戦士たちが、観客の歓声の中で殴り合い、倒れ伏し、そして立ち上がる。
「お前の身体には、まだ獣の血が流れてるはずだ。人間社会で見下され、忘れられて、終わるつもりか?」
ペンキの匂いが充満する中、彼はゆっくりと写真を見つめた。
ジャングルの王よ、再び目覚めろ。
手の中のペンキローラーを落とし、彼は深く息を吐いた。
「……地下闘技場が俺を待ってるんだな?」
サングラスの男が口角を吊り上げる。
「みんながお前を待ってるさ。さぁ、行こうぜターザン。」
ゴリラに育てられた爆発的な野生の力。
かつてジャングルを支配した男は、再び戦いの場へと足を踏み出した。
地下格闘技場(非合法なヤクザの大会)は、間もなく京都で開催をされる。
「ジャングルの王 シャバーニ ジュニア」は飛行機に初めてのり関西空港へ出発した。
【アフリカギャング 登録選手】
名 前:シャバーニ ジュニア
年 齢:35歳
職 業:ペンキ塗り
性 格:悲観的
二つ名:ジャングルの王
背景:幼いときにジャングルで迷っていたところをゴリラのシャバーニに助けられて18年間ジャングルの王として生活する。探検隊に見つけられて人間の世界に戻ってくるが。世界の人から忘れられる。人間社会に復讐をするために地下格闘技場へ参加を決意する。




