第二話 暗殺者と暗殺者
夜の闇が、静寂を引き裂く。
岡崎洋介の目が、冷酷な殺意を宿した光を帯びる。
まるで獣が本能を取り戻したかのように、その身体から発せられる気配は、さっきまでの高校生のものではなかった。
「よ、洋介…?」
伊藤美香は、目の前の友人の異変に戸惑った。
確かに見た目は洋介だ。しかし、その顔に浮かぶのは、人を斬ることに躊躇のない者だけが持つ"覚悟"。
「お前はここにいるべきじゃない。」
静かに、だが有無を言わさぬ声でそう告げると、洋介は一歩踏み出した。
「え…?」
美香が言葉を発するより早く、洋介の手刀が彼女のうなじへと突き込まれる。
ゴスッ!
短い衝撃とともに、美香の意識が遠のく。
「ごめんな、美香…」
優しげな声とは裏腹に、その顔はもう戦いに染まっていた。
倒れ込む美香をそっと地面に横たえ、洋介は改めて目の前の敵を見据える。
暗闇中で凶悪犯は語りかけた。
「フフ…面白ぇな。さっきとは雰囲気が違うじゃねぇか。」
凶悪犯の男は、ニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。
「今までの奴らとは違うな…その目つき、殺しに慣れてやがる。」
「……」
洋介はゆっくりと息を吸い込み、そして静かに告げる。
「これよりは人殺し同士の戦いだ。」
その言葉とともに、彼の中の記憶が完全に覚醒する。
夜の闇に、静かに対峙する二つの影。
岡崎洋介は、片手に竹刀を持ち、目の前の凶悪犯を睨みつけていた。
一方の男は、鋭く光る短刀を握りしめ、不敵な笑みを浮かべている。
「その竹刀で俺を殺せるかね?」
男は挑発するように唇の端を歪める。
洋介は静かに、だが確信を持った声で答えた。
「竹刀では無理だろうよ。」
ゆっくりと構えを解きながら、さらに言葉を続ける。
「でも・・・お前の持っている短刀なら、殺せそうだ。」
一瞬、男の笑みが消えた。
「……なに?」
次の瞬間、男の表情が殺気に満ちる。
「ハッ、ふざけんなよ!」
怒りと本能に突き動かされたように、男は短刀を握り直し、洋介の心臓めがけて猛然と突進してきた。
「そうなるだろうよ。」
洋介の口元に、かすかな笑みが浮かぶ。
暗殺武術奥義『刀返し』
ヒュッ!
突進してくる凶悪犯の腕を流れるように受け流し、洋介は一瞬で敵の懐へと潜り込む。
クルリ
凶悪犯の手首を捉え、自らの短刀を逆手に折り返すようにして、男の胸へと突き立てる!
「がっ…!?」
自分の武器が、自分の心臓を貫いている――男の目が驚愕に見開かれる。
「ぐ…ぁ……な、なん……で……」
膝が崩れ落ちると、男の口から血がこぼれた。
「お前は自分の刃で殺られる運命だった。」
洋介は淡々と告げる。
「地獄の閻魔に、お前の命…最後の一滴まで償わせてもらう。」
その言葉とともに、凶悪犯は地面に沈んだ。
岡崎洋介や、岡田以蔵の血が流れる男は、伊藤美和を担ぎ静かに夜の闇に消えていく。
令和の世に、再び"人斬り"が目覚めたのだった。