第五話 死のフラメンコダンサー
機内は静寂に包まれている。高高度を飛ぶ飛行機のエンジン音が低く響く。ビジネスクラスの一角で、沖田壮一は無言で隣の女を見つめていた。沖田は警察に肺結核を患ったので療養と嘘をついて、病欠のため休んでいる。しかし本当の目的は彼女を地下格闘場の競技者としてスカウトすることだった。
彼女の名は オリビア・デル・リオ。
スペインの暗殺者にして、"死のフラメンコダンサー" の異名を持つ女。
黒く波打つ髪、白磁のように透き通る肌。深紅のドレスに身を包み、カスタネットを改造した、鋭利なナイフを忍ばせている。彼女の一挙手一投足には優雅な舞のようなリズムがあり、その動きに魅せられた者は、次の瞬間には命を奪われているのだった。
しかし
「ソウイチ、ワタシ、日本のアニメがダイスキです!」
その美貌とは裏腹に、彼女の口から飛び出したのは まさかの日本語 だった。
沖田は一生懸命にオリビアの話を聞く。
「オリビアは日本のアニメが好きなんだ」
「ワタシ、日本語ハ、アニメから学びマシタ!」
沖田の眉がピクリと動く。
「どんなアニメなんですか?」
「ワタシの好きなアニメは 『サンサンサンシャイン』!」
オリビアの目が輝いている。まるで獲物を見つけた猫のように。
「サンサンサンシャイン?知りませんね、そのアニメは」
沖田は聞き返した。
「美少女戦士が悪者達を倒す、トテモ素晴らしいアニメ!」
オリビアは興奮気味にスマホを取り出し、画面を見せつける。そこには、派手な変身シーンとともに敵と戦う美少女戦士の姿が映し出されていた。沖田は無言でそれを見つめる。
「特にこのシーン、ワタシ、大好きデス!」
オリビアは動画を再生しながら、感情を込めてセリフを口にする。
「あなたは負ける運命にあった。それがあなたのディスティニー!」
「あなたは主人公のセリフに強く共感した、ということ?」
「ソウ!宿命からは逃げられない……それが、このアニメのテーマ!」
「……なるほど」
沖田は心の中で安堵した。彼女の興奮を適切に受け止めることで、余計なトラブルを避けることができそうだ。
「よし、私もサンサンサンシャインを見て勉強しよう」
「ホント!?うれしい!じゃあ、まずはこのバトルシーンから!」
オリビアは満足そうに微笑みながら、次々とお気に入りのシーンを再生し始めた。
オリビアは画面に映る美少女戦士の華麗な戦闘を、まるで敵の戦闘パターンを分析するように真剣に見つめていた。
沖田の本来の目的は、オリビアに 地下格闘場の参加と暗殺の仕事を依頼すること。
そのためにスペインへ向かい、彼女と交渉し、日本へ戻ってきたのだった。
しかし、オリビアのアニメの話は終わらない。
沖田はため息をつきつつ、飛行機の窓の外を見やる。
「もうすぐ関西空港に到着しますよ、オリビアさん」
オリビアはまだスマホの画面美少女戦士達に夢中だった。
(それがあなたのディスティニー!わたしの運命を決めるのは誰)
地下格闘技場(非合法なヤクザの大会)は、間もなく京都で開催をされる。
「死のフラメンコダンサー オリビア」に岡崎洋介の運命は翻弄されるのだった。
【指定暴力団 斎藤組 登録選手】
名 前:オリビア・デル・リオ
年 齢:30歳
職 業:フラメンコダンサー・暗殺者
性 格:情熱的・アニメオタク
二つ名:死のフラメンコダンサー
背景:スペインの殺し屋で死のフラメンコダンダーの異名をとる。対戦相手に絶望を与える殺しの死のダンス「 デスフラメンコディスティニー」を見たものは生きて帰れないといわれる。口癖は「それがあなたのディスティニー(宿命)」




