第四話 忍者教室
【鎖鎌】
鎖鎌とは歴史は戦国時代に遡る。もともとは農具であった鎌に鎖と重りを加えたものが、戦場や個人の護身用として発展していった。
戦国時代
この時代、日本各地の武将たちが覇権を争い、新たな武術や武器が次々と生み出された。鎖鎌もその一つであり、特に歩兵が騎馬武者と戦う際に用いられた。また、忍者たちが隠密行動や奇襲の武器として使用したことでも知られる。
江戸時代
戦乱が収まり、武術が実戦技術から精神修養を重視する武道へと変化していった。この流れの中で、鎖鎌術もまた、単なる戦闘技術ではなく、武士道の精神を学ぶための鍛錬としての側面が強くなっていった。
鎖鎌術の特徴
多様な技術
鎖を使った遠距離攻撃、絡め取り、相手の武器を封じる技術など、多岐にわたる戦法を駆使することができる。これにより、柔軟かつ多彩な戦術が展開可能である。
隠密性と奇襲性
鎖鎌は折りたたんで隠し持つことができるため、忍者が使用するのに適していた。不意打ちや奇襲攻撃において、絶大な効果を発揮する。
現代における鎖鎌術
現在では、鎖鎌術は古武道の一つとして継承されている。武道愛好家や研究者によって学ばれ、演武大会などでも披露される。また、その歴史的・文化的意義に注目する者も増えている。
岡崎洋介は、異国の人々と肩を並べながら、香取真道流の忍者教室に足を踏み入れていた。
道場には、色とりどりの肌を持つ外国人たちが並び、皆、真剣な眼差しで手裏剣を投げ、木刀を振るっていた。岡崎もその輪の中に溶け込み、楽しそうに手裏剣を的に向かって投げている。鋭い音を立てながら、手裏剣は木の的に突き刺さる。彼は歓声を上げる外国人たちとハイタッチを交わし、無邪気に笑った。
「……あいつ、忍者にでもなるつもりか?」
その光景を、土方敏夫は遠巻きに見つめながら、いぶかしげに呟いた。
だが、岡崎洋介の狙いは忍者になることではない。彼の目的は、別にあった。
岡崎が本当に学びたかったのは 鎖鎌術。
それも、ただの鎖鎌術ではない。彼が目指すのは、二刀神影流鎖鎌術。
毒手使いとの戦いを控えた岡崎は、有効な武器として鎖鎌ではないかと考えた、そして、その技術を習得するためにこの場に来たのだ。
朝の冷え込む道場。畳の上に柔らかい陽光が差し込み、静けさの中に鳥のさえずりが微かに響く。
岡崎洋介は鎖鎌を握りしめ、正面に立つ師範を見据えていた。
「ほう、なかなか様になってますね」
そう言いながら、師範はニヤリと笑い、自らも鎖鎌を構えた。
「先生、お願いします!」
岡崎は鎌の柄を握り、片手に鎖のついた分銅を持つ。
「まずは基本の打ち込みからやりましょう」
師範が鎖を軽く振ると、分銅がしなやかな弧を描いた。次の瞬間、ズバッと空気を切り裂き、的へと吸い込まれるように飛んでいく。
「すごい・・・」
岡崎は思わず息をのむ。
「あなたもやってみて下さい」
岡崎は深呼吸をして集中し、鎖をゆっくり振り回す。
(イメージするんだ……)
鎖は遠心力を持ち、軽快な音を立てながら回転する。次の瞬間、岡崎は一気に分銅を前へと振り抜いた。
ガツンッ!!
的の表面に鈍い衝撃音が響く。
「おおっ!決まった!」
岡崎は喜び、師範も満足そうに頷く。
「悪くわないんですが、鎖鎌は当てるだはいけません。相手の動きを制し、最後に鎌で仕留めるが基本です。」
「なるほど……!」
師範はニヤリと笑うと、鎖を軽く振り上げた。
「では、実戦形式で、いきましょう」
岡崎は構えを取り、師範と向かい合う。
「いきますよ!」
師範が鎖を振り回し、分銅が風を切って迫る。岡崎はすぐに身を翻し、紙一重でかわす。
「なかなかの反応ですね。」
岡崎も負けじと分銅を振り、師範の鎌に絡めようとする。しかし、師範は鮮やかに鎖をさばき、岡崎の鎖を弾いた。
「まだまだですね。」
「くっ……!」
しかし、岡崎は諦めず、再び分銅を振るう。今度は師範の鎖をかわしながら、相手の武器を狙う動きに変えた。
「ほう……なかなやりますねぇ。」
師範は嬉しそうに笑い、岡崎の攻撃を受け止める。鎖が絡み合い、二人の鎖鎌が一瞬の静止状態に入る。
(今だ!!)
岡崎は鎖を強く引き、師範の腕を固定させる。
「おおっ!?」
そのまま岡崎は一気に踏み込み、鎌を振り下ろす――
しかし、直前で師範がスッと身をかわし、岡崎の背後に回り込む。
「まだまだ甘い!」
「うわっ!」
次の瞬間、師範の分銅が岡崎の背後でピタリと止まった。
「一本頂きました。」
岡崎は悔しそうに笑い、鎖を解いた。
「先生、さすがですね!」
「いいえ。岡崎さんも、なかなかいい筋ですよ。もうちょっと鍛えば、実戦でも十分通用します。」
師範は岡崎の肩をポンと叩き、笑った。
岡崎も満面の笑みを浮かべ、鎖鎌を握り直す。
「よし、もう一回お願いします!」
道場に再び鎖が唸る音が響き渡る。
岡崎洋介は、ついに二刀神影流鎖鎌術の鎖鎌術を習得した。




