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【全話 完結】令和の人斬り 《天誅》 天に代わりて、悪を討つ  作者: 虫松
第四部 覚醒

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第三話 お泊り会

その夜、岡崎の家の前には、黒塗りのベンツが複数台停まっていた。


街灯に照らされた黒いスーツの男たちが整然と並び、鋭い目つきで周囲を警戒している。まるで極道映画のワンシーンだった。


岡崎洋介は、自宅の家の窓からその光景を見下ろし、思わず喉を鳴らした。


「……大丈夫か、これ?」


そんな彼の不安をよそに、ベンツのドアがゆっくりと開く。


「若、お泊りいってらっしゃいませ!」


一斉に頭を下げる黒服の男たち。


「おう、行ってくぜよ!」


軽く手を振りながら降りてきたのは、坂本龍太郎だった。


彼は極道の息子。周囲から恐れられ、誰も友達になろうとしない。だからこそ、今日という日は彼にとって特別なものだった。


岡崎の両親は、玄関先でその異様な光景を見て震え上がった。


(うちの洋介が……極道になってしまう……)


母親はそっと数珠を握りしめ、父親は新聞を持つ手が小刻みに震えていた。


坂本が岡崎の家に足を踏み入れた瞬間、目を見開いた。


「うおっ、狭っ……!」


彼の視線の先には、こぢんまりとしたリビングと、油の匂いが漂う食卓。


「なんじゃこの飯……コロッケに、タコさんウィンナー……?」


坂本は、目の前の食事に驚きを隠せなかった。


普段、高級料亭の贅沢な会席料理ばかり食べていた彼にとって、こんな庶民的な食卓は未知の世界だった。せまい自宅の風呂に入った後2階の岡崎洋介の寝室へ移動した。


「せっまき!まさか……お前、こんな犬の部屋で寝ゆうがか?」


岡崎の部屋は六畳一間。ベッドと学習机がぎゅうぎゅうに押し込まれている。


「狭いけど、これが普通だろ」


岡崎は肩をすくめたが、坂本は興味津々な様子で布団を触ったり、部屋の隅を覗いたりしていた。


「面白ぇな、お前ん家」


「お前、友達の家に泊まったことないのか?」


「あるわけねぇろ。みんな極道の俺のこと怖がって、親友もおらんかったき」


坂本は、冗談めかして笑ったが、その目はどこか寂しげだった。


岡崎は何も言わず、缶ジュースを投げた。


「……まあ、せっかくだし、楽しもうぜ」


坂本は一瞬、驚いたように目を見開いた後、ニヤリと笑ってジュースを開けた。



深夜。


二人はじゅうたんに寝転がりながら、好きな女性の話や音楽の話をしていた。


「お前、演歌好きだったんか?」


「おう、魂が震えるろうがサブちゃん最高じゃき」


「マジかよ……」


坂本の意外な趣味に驚きつつ、会話は自然と本題へと移っていった。


「京都の地下格闘技場のことだけどよ……」


「おう。金本知憲(かねもとともあき)っていう中国マフィアの双子龍ダブルドラゴンが仕切っちゅうらしい」


その地下格闘技場では、勝者を決める賭けが行われていた。


さらに、体重差がある場合は“(おもり)”をつけたり、“武器”の使用を認めるという異常なルールが存在する。


「そんで……岡崎、お前の最初の相手が決まっちゅう」


「……誰だ?」


坂本は真剣な目で岡崎を見つめ、ゆっくりと口を開いた。


「盲目の毒手使いじゃ」


岡崎の脳裏に、暗闇の中で不気味な毒の手のイメージが浮かんだ。


斬って触れただけで人を殺すという伝説の暗殺の武器である毒手。


「お前、どう戦う?」


岡崎は天井を見つめながら、しばらく沈黙した後、


「……。対策を考えないとな」


部屋の薄暗い天井の上で、人斬りの岡田以蔵と盲目の毒手使い二人の暗殺者の影が交差するのを想像する。

それは、友情と戦いの幕開けを告げる、静かなる決意の夜だった。



___________________________


翌朝。


岡崎洋介の家の前で、インターホンが鳴った。


「おい、岡崎。誰か来ちゅうぞ」


坂本龍太郎は、まだ寝ぼけ眼で髪をぐしゃぐしゃにかき上げた。

玄関に向かったその瞬間。


「はぁ!?あんた何でここにいるのよ!!!」


坂本は目をこすりながら、朝の登下校のために岡崎の家に来た伊藤美香を見つめる。

美香の顔は怒りで真っ赤になっていた。


「ちょ、ちょっと待って!私、まだ洋介の家に泊まったことないのに……なんであんたが先に泊まってるのよ!?」


「はん?洋介は俺のもんじゃき。残念だったのぉ」


坂本はニヤリと笑いながら、わざと美香を挑発するような口調で言った。


「なっ……!!」


美香の怒りは頂点に達し、両手をギュッと握りしめる。


「そんなわけないでしょ!洋介は私の幼馴染なんだよ!」


「幼馴染?そんなもん、何の意味もねぇき。洋介は俺のもんじゃき」


「違う!!洋介は私の……!私のものなの!」


二人の言い争いはヒートアップし、ついには睨み合いになった。


すると――。


「……俺は俺のもの、なんだけど」


突然、岡崎が間に割って入った。


「俺の意思はないの?」


岡崎はあきれたように両手を広げる。


すると、二人は顔を見合わせたあと、ピタリと同時に答えた。


「ない!!」


息ぴったりの返答だった。


「……はぁ……」


岡崎は天を仰ぎ、大きくため息をついた。

朝の静けさをぶち壊すような騒がしいやり取りに、近所の犬が遠吠えをあげた。


地下格闘技場(非合法なヤクザの大会)は、間もなく京都で開催をされる。

岡崎洋介は夏休みの大会までに盲目の毒手使いへ使用する武器と対策を考えるのだった。


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