第二話 リアル破壊王
プロレスラー 高橋健司 は、苦悩していた。
彼は「リアルなプロレス」を目指し、新たな団体を旗揚げした。しかし、その理想に共鳴した仲間たちは、一人また一人と彼のもとを去っていった。
「理想と現実は違うんですよ」
そう言い残して背を向ける若者たち。
「プロレスは八百長があってこそ成立する」
周囲の声は、まるで呪いのように高橋の耳にこびりついた。
それでも、俺は本物を追い求める。
そう誓っていたはずだった。
しかし、現実は過酷だった。資金が尽きかけ、団体運営も危機に瀕する。
そして、高橋はついに屈した。
「……試合を受けよう」
金のために、八百長試合を。
対戦相手は、かつての師匠・佐山剛 だった。
師弟対決の果て
試合当日。観客の期待が渦巻くリングの上。
ゴングが鳴る。
高橋と佐山は、リング中央でがっちりと組み合った。
「……プロレスとはな、客に夢を見させるものだ」
師匠・佐山が低く囁く。
「プロレスは八百長 があってこそ成り立つんだ」
その言葉を聞いた瞬間、何かが弾けた。
「違う!!!」
高橋の怒りが爆発する。
「プロレスとは、リアルであり!最強の格闘技だ!!!」
その瞬間、右ハイキックが炸裂した。
鋭く振り抜かれた蹴りが、師匠・佐山剛の側頭部を直撃。
八百長の筋書きにはない、リアルな衝撃。
佐山の意識が吹き飛ぶ──
無防備な巨体がコーナーポストへと叩きつけられ、首が不自然な角度に折れ曲がった。
……静寂。
師匠 佐山剛は、二度と立ち上がることはなかった。
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翌日、新聞やテレビは大騒ぎだった。
「プロレスラー・高橋健司、人殺しの凶行!!」
「八百長を拒み、リアルファイトで師匠 佐山剛を植物人間に!!」
「破壊王」
マスコミがつけたその異名が、高橋のすべてを奪った。
彼はリングを去った。
プロレスを捨てた。
どん底に落ちた高橋のもとに、一人の男が現れる。
黒いスーツ、鋭い眼光 ヤクザ だった。
「リアルなプロレス、しませんか?」
ヤクザは笑いながら言った。
「血と暴力だけが支配する新たなリングへ」
地下格闘技場(非合法なヤクザの大会)は、間もなく京都で開催をされる。
元横綱の雷王丸の最初の対戦相手は「破壊王 高橋健司 」にマッチングされるのだった。




