表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【全話 完結】令和の人斬り 《天誅》 天に代わりて、悪を討つ  作者: 虫松
第四部 覚醒

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/89

第一話 盲目の毒手使い

ネオンが乱反射する夜の繁華街。酔っ払いが数人、肩を組みながら千鳥足で歩いていた。


「部長のバカヤロウが!死んじまえ!」


アルコールの勢いに任せた罵声が、通りに響く。行き交う人々がチラリと彼らに目をやるが、すぐに顔をしかめ、足早に距離を取った。


その先に、一人の老人が杖を突きながらゆっくりと進んでいた。着古したボロボロの衣服、長く伸び放題の髪と爪と鼻毛、そしてなにより、周囲の鼻を突くような異臭。強烈なアンモニア臭が立ち込め、通行人たちは眉をひそめ、足を止めることすら嫌がるように避けていく。


「うわっ……くっせぇえな、この野郎!」


酔っ払いの一人が鼻をつまみ、顔をしかめながら吐き捨てる。


「なんだよ、浮浪者か?なぁ、ゴミはゴミ箱へ、ってな!」


そう言うなり、男は勢いよく老人の腹を蹴り飛ばした。


「ぐっ……!」


老人の体が吹き飛び、道端のゴミ捨て場に突っ込む。腐った生ゴミがはじけ、汚れた布が舞う。


酔っ払いは腹を抱えて笑った。


「アハハハ!マジでゴミになったぜ!」


笑いながら、ふらつく足取りで去っていく。だが、その歩みが突然止まった。


「……あ?」


腹に違和感を覚えた男は、ふと手を伸ばす。シャツには鮮やかな紅い染みが広がっていた。


「なんだこりゃ……?」


指先で血を拭った瞬間、視界がぼやける。


「っ……うぐぅ……!」


喉の奥から鉄の味がこみ上げ、口から血の塊を吐き出す。脚がふらつき、地面が急に遠のいたような感覚に襲われた。


「おい、大丈夫か?」


仲間の声が遠くなる。意識が揺れ、頭ががくんと傾く。


ドサッ──。


酔っ払いは仰向けに倒れたまま、二度と動くことはなかった。


ゴミの中から、老人がゆっくりと身を起こす。杖を手探りで拾い、立ち上がると、


「いやなぁ都政だねぇええ」と呟いた。


左手の毒手の爪には血が滲んでいた。


挿絵(By みてみん)



そして、何事もなかったかのように夜の闇へと消えていった。


___________________________


街角の片隅、雨上がりの路地に小さなダンボール箱が置かれていた。その前に座るのは、一人の盲目の老人。


彼の髪は白く、肌はしわくちゃに縮み、衣服は汚れにまみれていた。だが、ただの物乞いにしてはどこか異様な雰囲気を漂わせている。


老人は左手に革の手袋をしている。そして静かに手を合わせ、道行く人々に向かって小さな声でつぶやいた。


「ご慈悲を……ご慈悲を……」


そんな彼の前に、一人の男が立ち止まった。


黒いスーツに身を包み、鋭い目つきをしたヤクザ者。彼は無造作に懐から分厚い札束を取り出し、それをダンボール箱へと投げ入れた。


バサッ──。


「おじいちゃん、100万円 だよ」


ヤクザの男はニヤリと笑う。


老人は手探りで箱の中の札束を確かめた。震える指先で一枚一枚撫でるように触れ、その存在を確かめると、深く頭を下げた。


「……ご慈悲、ありがとうございます……」


「もっと欲しいか?」


ヤクザの問いに、老人は顔を上げた。白濁した瞳は虚空をさまよっている。


「……わしの命は、そう長くない……。もっと……欲しいです……」


その言葉を聞いたヤクザは口の端をつり上げ、低く笑った。


「なら、おじいちゃんにいい話があるぜ」


懐から煙草を取り出し、ゆっくりと火をつける。そして、紫煙をくゆらせながらこう言った。


「今度、闘技場で殺し合いの大会がある。命を懸けた真剣勝負だ。優勝すれば1000万円 くれてやるぜ」


1000万円。


老人の顔に、ゆっくりと笑みが浮かんだ。


「欲しいです……どうせ死ぬ命……喜んで、参加します……」


ヤクザは満足そうに頷き、煙を吐き出す。


「いい返事だな、おじいちゃん」


地下格闘技場(非合法なヤクザの大会)は、間もなく京都で開催をされる。

岡崎洋介の最初の対戦相手は「盲目の毒手使い、名無しの権平」にマッチングされるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ