第五話 尾行の影
朝のテレビから例のCMが流れていた。
笑って住む問題……「デスヨネ!」
雷王丸が雷神の格好でにっこりと微笑む。住宅会社「ニッコリハウジング」の広告だ。
「笑って済む問題じゃねぇよ……」
岡崎洋介はリモコンを掴むと、苛立ちを込めてテレビを消した。昨日の夜、巨大な男と目が合った瞬間が頭を離れない。雷王丸。元横綱で、今は不動産会社の広告塔。しかし、その裏で暗い噂が絶えない。
そして雷王丸が手を下した死体を外へと投げる悲惨な殺人現場を見てしまった。
朝ごはんを食べながら、雷王丸との戦いをシミュレーションしてみた。だが、どう考えても体格差がありすぎる。
(格闘技ってのは体重が重要なんだよ……)
ボクシングも柔道もレスリングも、細かく体重で階級が分けられている。小柄な選手が巨漢に挑んでも勝負にはならない。ましてや雷王丸は身長2メートル50センチ、体重280キロの巨体だ。雷王丸にとって体重70キロの自分は小さな子供であり体重差4倍もある。
体重が重い方が打撃の重さ、押しの強さ、耐久力が圧倒的に有利であるため、まともに正面から天誅をするのは無謀だった。
「……はぁ」
岡崎はため息をつき、朝食の味噌汁を啜る。
「ご馳走様でした」
食器を片付けて高校へ行く支度をしていると、インターホンが鳴った。
「おはよう、洋介!」
ドアを開けると、伊藤美香が立っていた。岡崎の幼馴染で、毎朝一緒に高校へ登校をしている。
「おはよう……」
「ねぇねぇ、今日転校生が来るらしいよ! 華怜が入学手続きをしているイケメン男子を見たんだって!」
美香は興奮気味に話す。
「へぇー ……」
「もう! ちょっとは興味持ちなさいよ! 私たちのクラスに来るかもしれないんだから!」
「そうなんだ……」
「イケメンの王子様。私の運命の出会いだったらどうするの洋介!」
「どうするって、いわれても知らねぇよ」
岡崎は適当に相槌を打った、頭の中は雷王丸のことでいっぱいだった。転校生が誰であろうと、今はどうでもいい。
美香の話を聞き流しながら歩いていると、どこから誰かの視線を感じた。暗殺人の鋭い勘が警鐘を鳴らす。
(……誰かに覗かれている?)
さりげなく後ろを振り返るが、それらしい人物は見当たらない。だが、確信があった。
その頃、朝食代わりに片手にアンパンをかじりながら遠くのビルから双眼鏡で覗く男がいた。
「いやぁ、朝から好きな女子と登下校……青春真っ盛りってやつだな」
刑事の土方敏夫。斎藤の部下で、密かに岡崎洋介を尾行していた。
そして岡崎と接触する人物も探す。
「さて、裏切り者を探しますか」
土方はだいぶ離れた場所から、岡崎の後を尾行し追い始めた。




