第三話 雷王の粛清
雷王丸が乗っていた黒いワゴン車の後部ドアが開くと、ニッコリハウジングの不動産営業マンたちが降り立ち、道路の両端に「通行止め」の看板を立てた。一般の通行人が近づかないようにするための措置だろう。彼らの動きには慣れがあり、こうした事態が一度や二度ではないことを示していた。
雷王丸がゆっくりとアパートの前に立つ。その巨体は玄関の引き戸よりもはるかに大きかった。
「……セマイ。」
雷王丸は静かに呟くと、アパートの木造の入口を両手で掴み、そのまま引きちぎった。ギシギシと悲鳴を上げる木材、崩れ落ちる柱。
「アパート コワス ノ OK?」
「先生、悪い日本人がたった一人しか住んでいません。好きにやっちゃってください。」
ニッコリハウジングの営業マンの一人が、薄笑いを浮かべながら答えた。雷王丸は満足げに頷き、内部へと足を踏み入れた。
岡崎は向かいのゴミ捨て場の物陰に潜みながら、その様子を見つめていた。これはただごとではない。
雷王丸が破壊した玄関の先には、共用の廊下が伸びている。目指すべき住人の部屋はその先だ。雷王丸は廊下の天井に頭が当たらないように、わずかに屈みながら進む。
「……ヤクソク、マモラナイ、ワルイコ。」
彼の呟きが、廊下に響いた。
そして、目的の扉の前で足を止める。
ドンッ!!!
張り手の一撃。雷王丸の掌底が、木製の玄関のドアを粉々に粉砕した。
「ギャアアアッ!」
雷王丸が破壊した玄関の先には、細い廊下が伸びている。目指すべき住人の部屋はその先だ。雷王丸は廊下の天井に頭が当たらないように、わずかに屈みながら進む。
「デテコイ、ワルイコ。」
彼の呟きが、廊下に響いた。
目的の中年の男性を見つけると雷王丸は軽々と男性を持ち上げた。
男の足が宙に浮く。彼は必死に手足をばたつかせた。
「や、やめろ! こんなの違法だ! 警察に……!」
「ワタシ、カミナリ」
雷王丸の口元に、不気味な笑みが浮かんだ。
「カミナリ、ニホン ノ ホウリツ、キカナイ。」
その言葉と共に、男はアパートの共用の廊下へと放り投げられた。
「スモウ ヲ トリ マショウ」
彼の目は、まるで獲物を見つけた肉食獣のように、鋭く光っていた。
巨体をかがませると雷王丸の巨体が、地響きを立てるように中年男性へと突進をする。
「う、うわあああっ!!」
中年男性は悲鳴を上げながら、必死に逃げようとした。しかし、雷王丸の動きは見た目に反して素早かった。逃げる暇もなく、男の胸元に巨大な腕が突き刺さるようにぶつかる。
ドガァァンッ!!
まるで大型のダンプトラックに跳ね飛ばされたような衝撃。男の体は無防備に壁に叩きつけられ、無惨にも崩れ落ちた。口から血を吐き、目がうつろになる。
「カワイガリ、マダ、ツヅク。」
雷王丸はゆっくりと近づくと、男の襟首を掴んで持ち上げた。ぶらりと宙に浮いた男の体が小刻みに震える。
「や、やめ……」
その言葉が終わる前に、雷王丸の巨大な掌底が男の顔面を襲う。
バチィィンッ!!!
鈍い音が響き、男の体が無造作に地面へと転がった。
男は張り手により脳みそが揺れて気絶をしている。
「モウ、タチマセンカ?」
雷王丸は足元の男を見下ろしながら、ゆっくりと拳を握りしめた。
「オワリ、マデ、ガマン。」
そう言うと、雷王丸は倒れた男の肩を掴み、無理やり立たせた。
「トリクミ、ツヅケマス!」
再び、雷王丸の張り手が振り下ろされた――!
次々と誰もいないアパートの部屋を破壊して中年男を痛めつけて撲殺をした。
アパートから出てきた血だらけのスーツを着た雷王丸は、やりきった顔をしている。
そして、血まみれの雷王丸が、不敵な笑みを浮かべながら男の死体を無造作に外へと投げ捨てる。
まるで使い捨ての人形のように。
「オワリ。」
雷王丸は満足げに頷くと、手についた血を振り払いながら振り返った。
岡崎洋介の拳が震えていた。恐怖ではない。怒りだ。
(こいつ、やりやがった……!)
岡崎洋介は、この相撲の巨人に天誅をくだす方法を必死に考えていた。




