第一話 刑事たちの裏切り
警視庁刑事課の会議室。灰色の壁に囲まれた無機質な空間に、数名の刑事が集まっていた。
斎藤一樹は会議室の隅に立ち、腕を組んで全員を見渡した。机の上には、複数の報告書が広げられている。
「おい、全員そろったか?」
「はい、斎藤さん。これで全員です」
部下の土方敏夫が答えた。
「……じゃあ始めるぞ」
斎藤は1つの報告書を手に持ち上げた。
「この報告書を読んだか?」
室内にざわめきが広がる。刑事たちはそれぞれ視線を交わしながら、報告書に目を向けた。
斎藤は手元の報告書をバサリと机に投げた。
「連続放火犯の容疑者である後藤田直哉がトンネル内で事故死だとよ」
室内に沈黙が落ちる。誰もが報告書を見つめたまま、言葉を発しない。
「後藤田の運転する車がトンネル内でバイクと接触し、そのまま車は炎上。焼死した遺体は激しく炎症して原形を留めていなかった……これが“警察の公式の見解”だ」
「……納得いきませんね」
若い刑事が呟いた。
「おかしいなんてもんじゃねぇよ!!警察は馬鹿なのか?!」
斎藤は苛立ちを隠さず続ける。
「第一に、後藤田は何で誰も事故の目撃者のいないトンネル内で事故死した? そして、あの場所にあの岡崎洋介がいたという証言もある」
一瞬、室内の空気が張り詰めた。
「岡崎洋介……」
「そうだ。連続通り魔事件の犯人が自殺した現場にいた男だ。そして、今回の“事故死”にも関わっている可能性が高い」
(偶然も2回重なれば、偶然ではなくなる。)
刑事たちがざわめき始めた。その中で、一人だけ冷静な男がいた。
沖田壮一だ。
「ですが、それが正式な捜査結果です」
静かで、感情のない声。動揺は一切ない。
「……お前、本気でそう思ってんのか?」
斎藤は鋭い目で沖田を睨んだ。しかし、沖田は動じずに言葉を続ける。
「証拠がなければ、それ以上の追及は難しいでしょう」
「証拠が? その証拠ってのはどこから出てきた?」
「捜査資料を確認してください」
沖田は淡々と答えた。
「……チッ」
斎藤は舌打ちし、机を軽く叩いた。
「土方、ちょっと来い」
土方は一瞬、他の刑事たちを見た後、無言で斎藤の後を追った。
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別室にて斎藤は部屋のドアを閉めると、土方を振り返った。
「土方、お前にしか頼めねぇことがある」
「……岡崎ですね?」
「そうだ」
斎藤は煙草に火をつけ、煙をゆっくりと吐き出した。
「尾行しろ。誰と会い、どこへ行くのか。すべて洗い出せ」
土方は黙って頷いた。
「それと……警察内部に裏切り者がいる」
土方の表情が引き締まる。
「岡崎の背後にいるのは裏切り者だ。必ず見つけろ」
「了解しました」
土方が静かに返事をすると、斎藤は煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
(岡崎洋介お前は何者だ……)
(そして、沖田、公安関係者の可能性ある、お前は敵なのか、味方なのか……)
斎藤の疑心は、ますます深まっていくのだった。




