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【全話 完結】令和の人斬り 《天誅》 天に代わりて、悪を討つ  作者: 虫松
第二部 目覚め

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第十話 できそこないの男

エンジンの轟音が響く暗闇のトンネル内で、後藤田直哉は狂気の笑みを浮かべながらハンドルを切った。

「終わりだ、ガキが!!」


ランボルギーニの鋭い車体が、バイクの後輪へと激しく体当たりを仕掛ける。


瞬間。


岡崎のバイクは制御を失い、時速200キロのまま弾き飛ばされた。前方へと高速回転しながら、パーツを散乱させ、ものすごい勢いで無慈悲に壁へと激突した。


ドォォォン――!!


爆発音がトンネル内に轟き、業火が舞い上がる。


「……やってやったぜ」


爆発音と炎がトンネル内を満たし、ランボルギーニの赤いボディに揺らめく影を落とす。

後藤田はランボルギーニを停め、ゆっくりと運転席から降りた。


「…俺はできそこないなんかじゃない……できる男だ」


彼は満足げにニタニタと笑った。しかしその笑顔は、まるで自分に言い聞かせるようなものだった。

頭の中には、幼い頃の記憶がこびりついていた。


___________________________



挿絵(By みてみん)


「お前はできそこないだ」

父・後藤田 ごとうだ みのる政界の大物であり、完璧主義者。


後藤田 直哉ごとうだ なおやは、彼の息子であるにもかかわらず、一度たりとも褒められたことがなかった。

「父さん! 俺、陸上大会で優勝したよ!」


「たかが区大会ごときで満足するな。そんなもので喜ぶのは、レベルの低い人間だけだ」


「……でも、俺、頑張ったんだよ!」


「努力したところで、全国大会予選敗退の結果が、それなら意味がない」


冷たい視線とともに、何度も何度も突き放された。

期待されているのは分かっていた。だが、その期待は常に「できない自分」を責め立てるものだった。


学歴、成績、スポーツ、すべてにおいて全国で優秀でなければならない。ほんの少しでも父の基準に達しなければ、「できそこない」と罵られた。


「できそこないが、後藤田家の名前を汚すな」


その言葉が、まるで呪いのように心に突き刺さり続けた。


そして

「できそこないの息子がいることが、 私の人生で最大の汚点だ」


最後に言われた言葉は、直哉の心を完全に破壊した。


___________________________


だからこそ、後藤田直哉は証明しなければならなかった。


自分はできそこないじゃない。


誰よりも優れた存在であることを。


誰にも負けないことを。


例え、どんな卑劣な手を使ってでも。


「さて、USBはどこだ……」


後藤田はトンネル内の後方へと吹き飛んだ岡崎の方へと歩み寄る。

数メートルほど歩き地面に転がるUSBを見つけ、それを拾い上げた。


「俺はできそこないなんかじゃない……できる男だ!」


歓喜に満ちた笑顔を浮かべた瞬間。


バキィッ!!


「ぐあっ!?・・・・」


鈍い音とともに、全身を貫く激痛。


気づいた時には、血まみれの岡崎洋介が目の前に立っていた。


暗殺武術 呼吸止め!


足を踏みつけられ、後藤田の身体は瞬時に硬直する。


次の瞬間。

ドゴォッ!!!


強烈な溝打ちが、腹へとめり込んだ。


「がはっ……!」


激痛と共に、後藤田はその場にくの字に身体が曲がり崩れ落ちる。視界が揺れ、呼吸がまともにできない。その時、岡崎の低く静かな声が響いた。


「火事で亡くなった寝たきりのおばあさんの苦しみは、こんなもんじゃねぇ……」


髪の毛をかき上げた血まみれの顔に、鋭い眼光を宿して、彼は叫ぶ。


「ここからは、生まれ変わった岡田以蔵が、お前に天誅を下す!!」

トンネル内に響く怒号の声、復讐の幕が、今、開かれる。


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