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第一話 最初の異世界人

『おはようございます。2月29日うるう年の本日は雨が降っています。4年に一度の本日は雨のスタートとなってしまいました。ですが本日の天気は雨のち、いーーー。』

そこでテレビが切れた。

いや、切れたという表現は適切ではない。

この男が切ったという表現が正しい。

「ったく、だりぃーな、最近のテレビは同じことしかいわなくてよー、なぁ!」ードン。

昨日までは同じ要素がなくてうざいだのほざいてたくせに、、気持ち悪い。

「おい!早く酒持ってこいよ!言わなくても見りゃわかんだろ?、この!クソ!ガキ!んなこともわかんねぇーのかぁ、あ!?」ーぐちゃ。

最近では痛いとも思わなくなってきた。

痛みはやはり耐えられる。

でも崩れた心はもう戻らない。

今は、ただただ、気持ち悪い。

いつかこの男を地獄に叩き落としてその顔を僕がやられたみたいにぐちゃぐちゃに踏み躙って、

同じ痛みをー、苦しみを、感じさせたい。

く、やー、しい。


ーー見える傷はなんとか治せる。しかし見えなければ治しようがない。だから心の傷は治らない。ーー


男は気が済んだのか踏みつけるのをやめると、満足そうな笑みを浮かべた。そして忘れてたと言わんばかりに振り返り、酒を持って来さるためにさっきまで踏んでいた子を叩き起こし、台所に向かわせた。台所はもちろん汚く、ーー。否、意外にも台所は綺麗で美しく整理されたものだった。

それは台所を毎日毎日綺麗にする人がいた証拠だ。

そう、男は毎日のように生まれてきた我が子に家事全てをやらせていたのだ。

そんな状況で育った子だったのだ。

故に、知っていても当然だ。

どうやって包丁を使えばいいのか、どうやったらよく肉が裂けるのかを。

女の子、は皮肉にも毎日のように肉を切っていた包丁を取り出し、さっきまであんなにも文句を言っていたはずのテレビを見ている男に向けて突き立てた。

これ以上の説明は必要ない。

男は死んだ。

その後のことは少し残酷なのでカットしよう。

とにかくそうやって男をふみつけていると不意に視界が回転した。

「ドン。」鈍い音がなり、割れてはいけない頭の骨が割れたのを観測した。足が滑った先には、硬い何かが転がっていて、それに頭をぶつけたようだった。幼いその子にはわからなかっただろう。頭が割れても、人は死ぬということを。

こうして若い女の子の短く、苦悩に満ちた人生は幕を閉じた。


ーー「ってな感じで合ってるかな?工藤律ちゃん?」ーー

「はい。合ってます。」

ここは死んだ人が来る運命の分かれ道、天国と地獄どちらにいくかを決める場所。

気づけばそこに私は立っていて、今目の前にいるこの人と話している。

「あー、自己紹介が遅れたね、俺えんまっていって、ここでちょっとした仕事をしているんだ。」

「そうなんですか、」

「どうしたんだい?」

「いや、なんでもない、です。」

私は死んだのか、と聞きたかったものだが、やはりそんなこと聞かなくてもいい。ここは死後の世界で、私は死んだ。それだけ。、

「あいつは死んだんですか?」

「アイツって、あー、君のお父さん?そりゃもちろん、死んだよ?」

「ー、よかったぁー。」

「ん?」

「あ、」

つい本音が出てきてしまった。

この人が本当にえんまなら、地獄と天国に行くかを決める。つまりいいように思ってもらわないと困るのだ。

「えーっと、今のはちょっとしたアレというか、、、」

そう言葉を繋ごうとした時、隣の隣くらいの窓口で怒鳴り声が聞こえた。

「なんっでぇ!俺が!地獄に行かなにゃならねぇんだよ!」ードン

つい1時間くらい前に聞いた、ずっとずっと僕の頭をかき乱した、うるさい怒鳴り声。

「俺は娘にな!いい子に育って!欲しかったから!しっかりと躾けて、教育してただけ!なんだ!よ!」

いちいちうるさく怒鳴るその声が自分以外に向けられているこの状況がなんとも不思議で面白くすらあったのだが、同時に気づけば安心していた。

ーーもう縛るものはない、自由なのだと。ーー

「すみません。前世に悪い行いをしてしまった方には、地獄に行ってもらう、そういう決まりでして。すみません。」

怒鳴られるたびに感情のない「すみません」を繰り返している窓口の人が今大切なことを言っていた気がする。

「地獄ぅ!俺が!なんで!てか、てか!何を、すんだよ!」

だんだんと勢いが衰えて、顔も衰えて行く男の姿はなんとも悲しかった。

「これが私の父か、、」

このような父と同じ血が入っていることがなんとも屈辱的ではあるのだが、

「いい教訓ではあるね。」

こうはならないように、人に対して唾を撒き散らすようなことはないように、気をつけるとしよう。

さて、

「えんまさま、私の行き先ってどっちです?」

「ん?君?君はね、、、地獄、かな?」

その言葉を聞いた瞬間、全身の細胞がブルっと震えた。

「地獄ですか。」

「うん。そうだね」

「ちなみに理由を伺ってもいいですか?」

「まぁ大きな要因としては最後の1時間かな、あれはあまりにひどすぎるよ。いくら君が虐待を受けていたとはいえ、あれは良くない、からね」

「そうですか。」

僕は顔があげられなかった。

「ちなみに地獄ではどんなことをするんですか?」

「うーんとね、人によって変わるんだけど、大体は今までで一番受けてきた一番きついことの5000倍くらいを数億回やるって感じかな?」

「なるほど、」

そして私は最後の質問をした。

「そこでのことがおわったら、僕たちはどうなるんですか?」

「大体はもう人間をやりたくなくなるから虫とか鳥とかになるけど、人間だったり、なんにでもなれるし、どこへでも。いけるよ、」

その一瞬えんまの声質、眼光、全てがガラリと変わり、人の奥を、心を見通す神のように変化した。しかしそれはすぐ崩れ、必死で笑いを我慢するように、尊敬するように、そしてまるでありえないものを見るようにと変化して、最後には前にいる女の子に自分に起こった変化の原因を聞いた。


「君は、どうして、笑ってるのかな?」


「え?僕、笑ってました?」

「うん。地獄の話をした時から。」

気づけば僕は満点の笑顔で笑っていた

「これから、自由かー!」

自分が笑顔な理由はおおよそ予想はついている。

嬉しすぎるのだ。次が、明日が、自由の目が、耳が、自由の体が、何も縛られない今が。

「今が幸せなのかい?これから地獄に行く今が」

「そう、ですよ?」

「そうかい。」

「だって、、地獄にいても、どこにいても、これから私は好きなように選べる。ー、ですよね?」

「まぁ、一応そうだな、ーー、それじゃあ、まぁ、頑張ってね。まぁ百億回くらいやれば、君も次に行けるよ。」

「100億かー、ちょっと長いけどまぁ、楽しめるよね!」

百億、それは一体どれほどの時間なんだろう。

前の人生ではあまりにも苦痛だった時間だが、今度は楽しめるだろうか、そう言った心配が


「、行ってらっしゃい」

「行ってきます!」

次の瞬間僕は地獄で目が覚めた。

そこはまるで、この世で表せないような、本当に地獄としか言いようがないような、火が氷が、地面が空が、ごちゃごちゃになって、広がっていた。

「まぁ、見える傷は、、なんとかなるかな、」

その時僕はどんな顔をしていただろう、

明日を笑って過ごす。

まずはそれから始めよう。

「なんせ僕には、縛りのない明日があるからね」

そうして一歩目を踏み出した瞬間、

頭を潰されるような痛みが襲いかかり、血反吐が出て、臓物がひねくり出されるようにからだが痛くて、きつくて、死にたくなるような痛みに襲われながらも、

口元の笑みを無くさないまま、地獄を歩くのだった。

ー同時刻ー

次の迷い人が窓口に顔を出すまでの少しの間、えんまは考えた。

「自由ねぇー」

自由とは、縛りがないことなのだろうか、

自由とは、そんな簡単に掴めるものなのだろうか、

もしそうなのだとしたら、

「俺らも自由になれるのかねぇー。どう思う?えんま3ちゃんー」

「知りませんよ。なんで私に聞くんですか、めんどくさい。どうでもいいんで仕事やりましょう。めんどくさい。」

「そだよねー」

そうして次の迷える人がまた窓口に入り、地獄か天国かを、自分の人生を決める分かれ道に立つ。

「自由ねぇー」

自由は誰が決めるのだろう。

自分だろうか、他人だろうか、考れば考えるほどどめんどくさくなってきた。

「まぁ、地獄に行って、あの子がどうなるかだけは、ちょっと気になるかなー」

そう一言残して、えんまはまた同じように

変化したのだった。

「俺はえんまっていってーねーー、」





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