それでも俺は。
学校祭最終日の翌日。午前中にクラスの打ち上げに参加した後、幸直はアルバイトのためクレープ屋に向かう。
クレープの妖精さんがアルバイト先の店長という幸運を、幸直は学園祭の日からずっと噛みしめていた。
どうも顔面が緩みっぱなしになってしまっていけない。
だが、彼にとっては〝妖精さん〟との再会とその正体は、そうなってしまうに値する出来事だったのだ。
機嫌良く鼻歌まで諳んじながら、クレープ屋の制服に着替え、ロッカーを閉める。
そのままの足取りで、事務室に顔を出す。
パソコンに向かう水木の姿があった。ぱあぁ、と幸直の顔と気持ちが輝く。
「おはようございます、師匠!!」
ガバッと幸直は深々と腰を曲げる。そして顔を上げた。
横顔からも分かるほどに、水木は忌々しそうな表情をしていた。
「……店長と呼べ」
横目で睨みながらそれだけ言い、水木は再び事務作業に向き直る。
思わず「師匠……?」と幸直は呟く。
その言葉に、水木は視線を向けた。憎しみのこもったそれを。
「……お前みたいなガキを見てると反吐が出るんだよ、クビにされたくなけりゃとっとと働け!」
視線以上の憎悪に染まった声音で、水木は当たり散らす。
その剣幕に幸直は口を噤まざるを得なかった。
「……サーセン」
本当に、それしか返す言葉が見つからない。
幸直は頭を下げ、事務室を出るために踵を返す。
だがそれでも、どうしても彼は諦められなかった。部屋の外でドアを閉める寸前、彼はこう言い残した。
「……でも俺、諦めてませんから、弟子になるの!」
そのまま、返答を聞かず幸直はドアを閉める。
すぐに何か硬質で軽い物が、複数投げつけられたような音が内部から聞こえてきた。
ため息をついて、幸直は表に出る。
しょげている暇はない。クレープ資金のための労働が待ち受けているのだから。
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