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あなたは俺のクレープ・フェアリー  作者: 雪玉 円記
5巻き目 後に、クレープ界の妖精王とその忠実なる妖精騎士としてバズる二人の誕生の瞬間である
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研鑽の結果

「……お前、怖ぇよ。何だよ今の食い方……」


その声に目を開けると、向かいの椅子に水木が腰掛けていた。

テーブル越しに彼を見やる。少しだけ目元に皺が出ているような気もするが、さほど変わっていない。

高校生の頃に見ていた水木とほぼ同じだ。違いと言えば、胸元にキッチンカーを模したマークと店名の刺繍が入った紺色のエプロンをしていることだろうか。


対して幸直自身は、少々様変わりした自覚がある。

専門学校に入ってから全ての時間を勉強と実技に費やしたかったので、手っ取り早く坊主にするようになった。背も何故か4年間で6cm伸び夢の190㎝台になった。

顔面は成人式で久方に会った中学時代の同級生に、「なんかシベリアンハスキーから野生のボス狼になったな」と言われる程になったらしい。

それだけ、水木から提示された条件を達成するために必死だったともいえる。


若い男性という身空であるから、同窓生やナンパ目的の女性から言い寄られることもあったが、全て断っていた。

そうしているうちに、同窓生と上下の学年の中で「クレープモンスター」という異名までつく始末。

だが幸直は全く構わなかった。

全ては水木の弟子になるため。水木にいい人が出来たとしても、〝伴侶〟や〝子供〟、家族以外の全ての枠を自分が独占するため。

そのために、幸直は努力し続けてきたのだ。


「……さて、面接の時間だ。履歴書と成績証明書」

「うす!」


ここからが正念場だ。幸直は気持ちを切り替える。

伊達に何度も履歴書や面接の添削を受けてきたワケではないところを見せなければ。

謝恩会の記念品や卒業証書が入った紙袋を傍らに置き、ビジネスリュックを開ける。

中からクリアファイルでまとめておいた履歴書と成績証明書を取り出した。

数日前にいきなり届いた水木からのメールで、今日の日時と住所、そして履歴書と成績証明書を用意しておけと言われたのだった。


両手でクリアファイルを水木の前に掲げる。水木は無表情で受け取り、まず履歴書を眺める。

目線的に、名前、住所と見て、学歴を飛ばし、志望動機などを重点的に見ているようだった。

志望動機には、かつてバックヤードで語ったことを履歴書に相応しいようにまとめてある。幸直的には改心の出来だと思う。

履歴書をテーブルに置いて、水木は一旦眉間を揉んだ。なんだかしょっぱいような、呆れたような、そんな溜め息もセットだった。

次に、のろりと成績証明書に手を伸ばした。開いて、めくって……、最後のページを確認し終わった瞬間、両手ごとバサリとテーブルに落とした。


「……嘘だろお前。オールS取りやがって。本当にトップクラスどころか首席じゃないか」


呆れと少々の怖れが入り混じったその声音に、へへへと幸直は照れ笑いした。


「これだけ優秀なら引く手あまただろうにって、センセーたちにも言われてたんすよ。これでも」

「……でも、お前はその話を蹴り続けたわけか」


水木はとうとう、天を仰ぎながら眉間を揉み始めた。

へへへ、と幸直はさらに照れ笑う。


「そりゃ、宇宙中の生き物に師匠と俺のクレープを一番だって知らしめなきゃいけねえっすからね」


水木は溜め息をつきながら、姿勢を戻した。


「……お前はまだまだ若い。四年も会ってなかったんだから、俺のことなんぞどうせ忘れてると思ってたのにな……」


それは幸直にとってはとても心外な言われようだった。

全ては水木の弟子になるための努力だったのに。


「なに言ってんすか! 師匠のことを忘れたことなんて一度もねえっす! ただ、師匠の言いつけを守らないと弟子にしてくれなさそうだったから、必死に近寄らないようにしてただけっす……」


幸直の言葉に、とうとう水木の溜め息が長くなった。

腹の底からの溜め息の後に、重々しく水木が口を開く。


「……ほんっっっっっとうに、俺のところで働きてえのか」

「はい!」

「こきつかうぞ、それでもか」

「はい!!」

「……俺は、裏切りには過敏だぞ。俺が認めた支店出店やのれん分け以外で、レシピを盗もうとしたりなんぞしたら法的社会的にぶっ潰してやる」

「そんときはガチで社会的にぶっ殺してくれて構いません!!!」


しばし、テーブルを挟んで睨み合う。

幸直は両手を両膝に置いて、水木は腕を組んで。

しかし、それも長くは続かなかった。


「……はぁぁぁ~~~~~…………」


今日一番長く重い溜め息と共にガックリと項垂れたのは、水木だった。


(? 師匠、どうしたんだ?)


幸直は、水木の意図が読めず大人しくしている。

水木は項垂れたまま、ぼそりと告げた。


「……合格」

「え?」


唐突に告げられた宣言に、幸直は思わず聞き返してしまった。


「面白い!」

「応援するよ!」

「続きが読みたい!」


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