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あなたは俺のクレープ・フェアリー  作者: 雪玉 円記
4巻き目 弟子入り条件、4項目
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ようやく届いた手

水木は、信じられないといった表情でこちらを見下ろしてくる。しかしその目の奥からはそれ以外の感情も混ざり合って見えた。

不信感、嫌悪、戸惑い、迷い、そして少々の安堵と、救われたい報われたいという飢餓にも似た願い。

しかし水木は長年、ひねくれ続けてきた男だ。幸直を鼻で笑い飛ばす。


「随分と分厚い色眼鏡だな。俺も俺のクレープも別にそんないいもんじゃねえってのに」


(……わあ。俺、師匠が初恋って言ったの聞いてたよな……?)


幸直は思わず真顔になってしまった。

確かに、13程も年下の、まだ未成年、それも同性のガキに言い寄られても、迷惑程度の感情しか湧いてこないだろうと幸直は思う。

でも幸直はもう、身体的には大人とさほど変わらない。

確かに経験不足故の未熟さはつきまとってくるが、少なくとも、好いた相手の助けになったり守ったりは、もう出来る……はずだ。


「……師匠。俺にとっては師匠と師匠のクレープは、俺の中で忘れられない、俺の基準の味になってるんです」


ぎゅ、と幸直は微かに両手に力を篭める。

自らの真剣な気持ちが伝わるように、願いをこめて。


「俺自身も、何度も既存のレシピやらなんやらから少しずつアレンジをして、周りにゃ美味しいって言われるようなレシピもいくつか作れました。でも、俺ン中じゃ全くテッペンにはほど遠い。それは何でだろうと思ってたんですけどね」


ちら、とパイプ椅子に置いたクレープに一瞬視線を移す。


「さっき、師匠のクレープを食って、確信しました。俺にとっては、師匠のクレープが最高のクレープなんです。それは人間としてもそうで、俺にとって師匠は、家族よりも誰よりも特別です。あの日、ガキだった俺は妖精さんに恋をして、そんで今、俺は師匠の特別になりたいと思ってます。弟子としても……あわよくば、恋人としても」


水木の肩が僅かに揺れた。


「正直、色々考えたんすよ。師匠の隣に嫁さんと子供がいて、っていう光景も。でもなんでか、どういう絵面が浮かんでこなかった。つーか、むしろムカついたっつーか……」


は? と水木は思わず首を傾げた。

ぼそぼそと幸直は口を尖らせながら言う。


「この嫁さんは師匠のことをどんだけ理解してるんだとか、師匠の心に本音で寄り添える器の女なのか、とか……。とにかく、師匠には下手な相手とくっついてほしくないんすよ……」


その言葉に、水木は溜め息を落とした。


「……お前の豊富な妄想力には脱帽するよ」


呆れの色が強かったが、その末尾は微かに震えていた。

しかし幸直はそのことに気付いていない。

だが、繋いだ手が震えている。動揺していることは感じ取った。

何に動揺しているのかは分からない。でも初恋相手にして弟子志願をしている相手を安心させたくて、幸直は手の力を更に強める。

見上げて、強い眼差しを向けた。


「……師匠。俺を師匠の弟子にして下さい。年中無休、ただ働きでも何でもします。俺は、師匠の元で師匠がビッグになっていくとこを見てえし、俺も師匠の教えでビッグになりてえんす」


今はまだ、幼少のみぎりに抱いた妖精さんへの子供の戯れのような感情と、(自称)弟子候補としての敬意が混ざり合っている状態だ。

それでも、意地が悪く、口も悪く、裏での自分への態度も決して出来た人間とは言えない水木への感情は今、悪いものではなかった。

ふと、そろりと水木が視線を向けてくる。

目が合った瞬間、幸直は目を見開いた。


(――あ、?)


彼の目元は、僅かに潤んでいた。

相変わらずのしかめっ面だったが、目元だけ、複雑な感情が見え隠れしていた。

なんとなく、自分に非がないのに叱られていて納得がいっていない幼子のように見えてしまい、幸直は思わずにぱりと笑ってしまった。

対する反応は返ってこない。


(……あっるぇ~……? もしかして、対応間違えたか俺……?)


思わず冷や汗が浮かぶ。

しばらくその状態のまま、時間だけが過ぎていく。

幸直はお預けを食らった犬の如く、じっと待ち続けた。

事務室内の時計の秒針がもう何週したのか分からなくなった頃、ようやく水木が口を開く。


「……俺は、基本的に自分とばあちゃんしか信用しないぞ」

「はい」

「そんな俺を、お前は好きって言うのか」

「はい!」

「……そんで、一緒に働きたいと」

「はいッ!!!」

「声がでけえ」

「すいませんッ」


水木は深い深いため息をついた。


「……今、お前が口走ってたことは」


水木の声が更に震える。どことなく水気のような雰囲気も感じた。


「……嘘じゃあ、ないな?」


低く、暗くなった声。

言外に、嘘だと言おうものなら即座に縁も関係性も全て切るという感情が見え隠れしている。

幸直は、力強く肯定した。


「全部、俺の正直な気持ちっす。俺の初恋が師匠だったことも本当だし、師匠の弟子になりてえのも本当です」


その答えを聞き、水木は何かを思案していた。そして、また溜め息をついた。

彼の震えはいつの間にか止まっている。


「……条件付きだ。今から俺が提示する条件、全部クリア出来たら、正式に検討してやる」

「えっ、検討なんすか!?」

「そう簡単にはい採用ってなるわけないだろ」


幸直の嘆きを、水木はにべもなくあしらう。

そして空いている方の手を水木は掲げた。

数字のハンドサインを出しながら条件を提示していく。


「面白い!」

「応援するよ!」

「続きが読みたい!」


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