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あなたは俺のクレープ・フェアリー  作者: 雪玉 円記
4巻き目 弟子入り条件、4項目
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諦めと憤怒

話は幸直サイドに戻ります。

幸直は、話の内容に驚愕していた。

その先輩とやらがあまりにも酷すぎて、途中からクレープを食べる気にもなれなかった。

水木は、スクリーンセーバーのふよふよと浮かんでいるクラゲの映像を眺めながら、自嘲するように話を続ける。


「……そっから、俺の記憶は一瞬途切れてる。次にある記憶は、店の男連中から羽交い締めにされながら、尻餅ついて鼻血出してるクソ野郎を更にぶん殴り続けようともがいてるところからだ。……俺は何かを叫び続けてた気もするが、まあ、その時には完全に気が触れてたっぽいからな。適当な恨み節でも吐き続けてたんだろ。その後はばあちゃんに素直にクビになったって白状して、同居してもらいながらしばらくカウンセリングに通ってた。正直、今でも気分の浮き沈みはある」


デスクに置いてあったステンレス魔法瓶の水筒を開け、水木は一旦中身を飲む。

水分補給を終えた彼に視線を向けた幸直は、ふと気付いた。

顔色は土気色、手指は細かく震え、決して幸直を見ようとしない。


(……師匠……。今でも具合悪くなるような話を、俺なんぞに……)


「ここで働いてんのは、一人でも出来る仕事を模索していて、クレープのキッチンカーに思い当たったからだよ。今は資金集めの最中だな」

「おお、いいっすねえ!」


クレープのキッチンカーなら、いろんな土地に行って武者修行出来る、と幸直は夢想する。


「じゃあ、最終的に師匠は……?」

「ああ。資金が貯まり次第、ココを辞めてキッチンカーを始めるつもりだ」


キッチンカーでのクレープ屋という、水木の前向きな目標に、幸直は沸き立つ。


「いいじゃないっすか、それ! うわぁ、どんなクレープ屋になるんだろうなぁ、メニュー開発もあるし、売る場所やらなんやらあるし……!!」


未来のことを考えると、今から幸直の胸は楽しく踊って仕方なかった。

そんな彼の様子に、水木はため息をつく。


「……オイ、なんでお前が俺よりもわくわくしてんだ」


え? と幸直は首を傾げる。


「俺言いましたよね? 俺は師匠の弟子になるんで」

「おい勝手に決めるな! 俺は許可した覚えはねえ!

「高校卒業した後、師匠のクレープ屋で修行するつもりなんですけど」

「話を聞け!」

「えぇ~……」


本気なんだけどな、と幸直は口にしないことにした。

言ったら最後、絶対に水木は拒否し続けるだろうことは目に見えていたからだ。


「……あ。ちなみに、レシピをパクったっつう奴は……?」


水木が店を退職させられたのだ。嫌がらせの主犯も解雇になってしかるべきだろうと、幸直は思ったのだ。

その疑問に、水木は皮肉げな笑みを向けてくる。 


「……どうなったと思う?」

「……」


この言い方で、幸直は何となく悟ってしまった。

お咎めなしで今もキャリアを積み上げているのだろうと。

そう思い至った瞬間、落ち着いていた幸直のはらわたは一瞬で沸騰しそうになった。


「……一番悪ィのは、師匠のレシピをパクって自分が考えましたっつうツラして出したそいつじゃねえですか。なんでそいつは、お咎めナシなんですか、ふざけてますよ……!」


クレープを持っていない方の手で握りこぶしを作る。

初恋のお兄さんにして忠誠を誓う師匠が味わわされた理不尽に、幸直は自分のことのように憤っていた。

怒りをなんとか抑えようとするが、それでも全身でわなわな震えてしまう。

その様を、水木は予想外とでも言いたげな目で見ていた。

それに幸直が気付くと、彼はすぐに視線を反らす。


「……あの人がやったっていう証拠が曖昧だったんだよ。俺の書いたレシピはどこからも見つからなかったし、監視カメラはポストのあたりにはついてなかった。俺とのやりとりも録音なんてされていなかったしな。だから本当にあいつが俺の直筆用紙を入れたのかも分からない。俺の見聞きしたものを裏付ける証拠はなかったんだ」

「………………」


幸直はギリギリと歯を食いしばっていた。

レシピが見つからなかったなど、件のクズ野郎がレシピをメモしたら処分したに決まっている。

監視カメラはその店の内部警備意識が低かった。

それ以前に、自分よりもいい成績を収めたからって新人をいびる先輩の方がどうかしている。

このようなことを脳内でつらつら考えながら、幸直はどうにも辛抱たまらなかった。

左手拳の開閉を繰り返しながら、歯の隙間から地獄の鬼もかくやというほどの唸りと吐息を漏らし続ける。

……そうして怒りを発散させていないと幸直は、一般市民の道から外れてでも自分の持てる手段とコネを最大限に使い、今すぐそのクズ共を見つけ出し抹殺しに行ってしまいそうだった。


「……おい、悪鬼みたいな顔になってるぞ、お前」


水木にそう声をかけられ、視線を向ける。

彼は怪訝そうな顔をしていた。


「……どうして、お前がそこまでキレてんだよ。もう10年は前のことで、とっくに終わった話だってのに」


それを聞いて、幸直は一回息を止め、それから深く吐き出した。

肺の中で地獄のマグマのようにぐつぐつと煮え滾っている空気を一度、全て入れ換えるように。

「面白い!」

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