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あなたは俺のクレープ・フェアリー  作者: 雪玉 円記
3巻き目 揺れる感情、救われた過去
17/35

学校祭のクレープ屋さん~エピソード0~・1

水木と幸直の出会いの記憶です。

「……はぁ」


思わずついて出た溜め息に反応したのは、注文係の女子だった。


「水木くん、表にいる間はため息つかないでよ」


その女子に裕斗は横目で視線をやる。


「……ならココ変わってくれよ」

「やーよ」


その答えに、また裕斗は溜め息をついた。

まさか、学園祭のクラス出し物を決める際にバックレた結果が、クレープ係にさせられるとは思ってもみなかったのだ。


(高校生活三年間で友達が一人も出来なかったような俺が、なんでこの係なんだよ……)


注文が入ったため、暇なときに焼いておいたクレープ生地をクーラーボックスからつまみ上げる。

作業台に乗せ、ホイップクリームを絞り、果物をトッピング。

ぱたぱたと三角になるよう畳んで、包み紙の中に入れれば出来上がり。

注文通り複数のクレープを仕上げ、注文してきた数人の若い女性客に手渡した


「……お待たせしました」

「ありがと~」


長くてごついネイルの手が次々とクレープをリレーしていく様を見ながら、裕斗は内心溜め息をつく。


(……疲れる)


ああいう黒っぽいギャルは苦手なのだ。

一人っ子で、家族に女性は母か祖母ぐらいしかいないことも関係するのかもしれないが、若い女性の扱いもよく分からない。

今度こそ溜め息をついていると、ふと視線に気付いた。

教室の後ろ出入り口から、体を半分覗かせてこちらを見ている男の子。

吊り目がちでやんちゃな印象だ。

その子供が、頬を紅潮させ目をキラッキラに輝かせながら裕斗を見ていた。


(……え? なんだ?)


裕斗は思わず固まる。それに気付いたスタッフ係のクラスメイトたちも、イートイン客も、彼の視線を追った。

途端、男の子はびくっと肩を振るわせる。しかし、視線は裕斗から反らさなかった。


「……」

「……」


思わず見つめ返してしまう裕斗。依然として見つめてくる男の子。

その状態が解除されたのは、一人の女子クラスメイトが男の子に声をかけたからだ。

静かに近づき、しゃがんで視線を合わせる。


「君、どうしたの?」

「え、っと」


子供らしい、高い声。

が、それを打ち消すように、盛大な可愛らしい腹の虫が鳴った。

男の子は、大きな紅葉の両手を胃のあたりに当てる。


「……う……」

「あらら、お腹空いちゃったのかな」


こくんと頷いた男の子。

その仕草に、裕斗はふと思い出してしまった。

まだ自分が小学生だった頃、やや年の離れた弟が空腹の時もあんな仕草をしていた、と。


「……腹が減ったのか?」


気付けば、持ち場を離れて裕斗は男の子にそう話しかけに行っていた。

女子クラスメイトからやや離れた前方にしゃがみ込んだ彼に、男の子は首を縦に振る。


「すいた」

「まさか、一人で来たわけじゃないだろ? 親は?」


すると、男の子は苦虫を噛み潰したような顔になった。

寄ってきていたクラスメイトや客の数人かは首を傾げる。


「だってかーちゃん、にーちゃんとこいくって。おれ、にげてきた」

「兄ちゃん? って?」

「ここのこーこーせー? だってゆってた」

「そっかぁ」


女子生徒の質問に、男の子は渋面を崩さず答える。

裕斗は溜め息をつきながら立ち上がった。


「なるほど。要は迷子か、お前」


瞬間的に男の子はぷくりとふくれっ面になる。


「まいごじゃねー! にーちゃん、いじわゆすっから、あいたくない!」

(……意地悪だぁ? ここの生徒なら、もういい年じゃねえか。何考えてんだよ)


裕斗はそう考えながらも、口には出さない。代わりに「はいはい」とおざなりな返事を返す。

むうぅ、と頬をぷくぷくに膨らませる男の子。やや離れたところでは「職員室に連れて行った方が……」というクラスメイトたちの声が聞こえてきた。

裕斗は関係ないとばかりに、売り場の方に戻る。客も溜まってきているのに、これ以上迷子にかかずらっていられない。

……が。


(………………)


どうも、小さな子が空腹をこらえているのを見るのは、心地が悪い。


「……あのう……」


裕斗が自分から客に話しかけたことに、注文係の女子は怪訝な顔を向ける。


「何ですか?」


客もそうだったようだ。

緊張で喉が張り付くような感覚を覚えながらも、なんとか声を絞り出した。


「……あの子に、先にクレープを作ってやってもいいでしょうか……」


すると、客たちの表情は肯定的なものに変わった。


「いいですよ。迷子の子だろうし、お腹空かせてるみたいだし」

「ぼくもいいよ! ぼく、あの子よりは大きいし、少しくらいガマンできるよ!」


順番が回ってきていた男性と子供の親子連れが、代表して返答した。

注文係の女子は意外そうに目を丸くしていた。


「……驚いた。水木くんにも人に優しくすることがあるのね」

「……人をなんだと思ってるんだよ」


すると、女子は端的に言い放つ。


「冷血漢気取りの一匹狼」


裕斗はもう何も言わないことにした。

他の客から綿飴を恵んでもらって、口をもぐもぐさせている男の子に向かって声をかける。


「おーい、迷子~」

「まいごちあう!」

「こっち来い」


裕斗は迷子を否定する男の子に向かって手招く。

男の子は綿飴を飲み込んでから、頭にハテナマークを浮かべた顔で近づいてきた。

「面白い!」

「応援するよ!」

「続きが読みたい!」


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