自分の気持ちはどこにあるんだろう。
(……トラウマ、かぁ)
それなら、水木が今のような性格になったのも頷ける。
幾度も辛い目に遭ったりしたら、性格が歪んでしまう人間もいるのだと聞いたことがある。
きっと、水木は歪んでしまったほうなのだろう。
目を開け、ギッと背もたれから音を立てて幸直は姿勢を直した。
(師匠が本当に、俺をボウにもハシにもかからねえと思ってたら、あんな感情的にはならねえはずだ。感情のままに口が回った感じだったしな)
両手を組み、その上に顎を乗せて肘を机につく。
(……俺は、師匠にどうなってほしいんだ? もちろん、クレープ界でビッグになってほしい。そこに俺がいれればなお良し。個人的な幸せもつかんでほしい。……でも、)
また、幸直の胸中を言語化できないモヤが覆っていく。
(……隣に嫁さんがいるって光景を、どうしても連想したくない)
それは、かつての初恋の相手に対する執着なのか。それとも、今の水木の姿を見た上での偽らざる気持ちなのか。
幸直はまだ判別がつかなかった。
(今の師匠は口が悪い、捻くれてる、正直言って第一インショーは悪い。あんまり付き合いたくはないよな、普通の感覚なら)
だが、と思う。
(どうしてもあの泣き顔が頭から離れねえんだよな……)
あの涙に隠れた真実を、どうしても知りたいと思ってしまった。
その断片だけでもつかめないかとイトに連絡したが、かつての勤務先で何があったかは彼女も詳しくは知らされていないらしい。
ならば水木に直接聞くしかないのだが、自分に話してくれるとは思えない。
「だーっ」
べしゃり、と幸直は机に崩れ落ちた。
ちっ、ちっ、と壁掛け時計の秒針の音だけが部屋に落ちる。
が、「だーっ!!」とすぐに両拳を天に突き上げ起き上がった。
「ヤメヤメ!! 悩むなんて俺のガラじゃねえや! まずは、弟子入りを認めてもらうところからだ! 俺は師匠以外の人間の下に付くつもりはねえんだからな!!」
がたん、と椅子から立ち上がる。
「っしゃあ!! 明日も気張るぞ!! 俺!!」
既に21時を回っている。その時間に気合の雄叫びを上げた幸直。
すぐに一階からどすどすとした足音が響いてきた。
バンッ!! とドアを蹴破る勢いで入ってきたのは、彼の母親だ。
「うるさい!! 近所迷惑するぐらいならとっとと風呂入りな!!!」
勢いそのまま、再び強くドアを閉め出て行く母親。
幸直はその背中に「分かってるようるせえな!」と毒づく。
が、すぐに思い直し部屋を飛び出した。
「母ちゃん!!」
「なんだいうるさいね!!」
一階に降りようとしていた母を呼びとめる。すると母は、ぎろりと睨みながら振り返った。
しかしその表情はすぐに怪訝なものに変わる。
「ちと、ガキの頃の件で訊きてぇことがあんだけど」
「……なんだい? アンタがそんな殊勝な顔してくるなんて、珍しいね」
母は降りるのを中断して、幸直に向き合う。
「ああ……」
幸直は、母に尋ねる。
幼い日の記憶を補完し、自らの感情を整理するために。
「面白い!」
「応援するよ!」
「続きが読みたい!」
など思われましたら、下部いいねボタンや、☆マークを
お好きな数だけ押していただけると嬉しいです。
感想やブックマークなどもしていただけると大変励みになります。
何卒よろしくお願いします。




